かたいなか

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「『君の』シリーズは何度か書いた記憶がある」
「君の奏でる音楽」、「君の目を見つめると」、「突然の君の訪問」、それから「君の背中」。
お題で「君」はよく見るが、「あなた」に遭遇した記憶が1個しか無い物書きである。
「君」は「主君」にも「貴君」にも、道教の神様「太上老君」にも化けるので、アレンジは一応、少しは、可能だと思う――「少し」は。

「で、背中?」
物書きは考える。 最近、加齢で背中が固くなってきたのは、一応、自覚しているつもりである。

――――――

主君の背中、暴君の背中、太郎君の背中に「君の『ハイチュ◯』」の誤変換。
言葉を付け加えれば色々書けそうなお題です。
今回は普通に「あなたの背中」の意味で、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、食いしん坊の遊び盛り。
お母さん狐の絶品料理をよく食べ、よく遊び、愛情をたっぷり受けて、幸福に過ごしておりました。

さて。 その日の稲荷神社、言葉を喋るハムスターと男性1人が、お客さんとしてやって来ました。
「世界線管理局」なる組織の職員です。
なんでも某私立図書館に用事があるらしく、
その寄り道として、管理局に協力している稲荷神社に、顔を出したそうです。
管理局の職員のビジネスネームは、ハムスターが「カナリア」、男性が「ルリビタキ」といいました。

ところで、とっとこカナリア、ピィピィ必死に走り回って、どうしたのでしょう?

「どうしたも!こうしたも!ないよ!
たすけてルリビタキ!なんとかしてぇ!!」
チィチィ、ぴぃぴぃ! とっとこカナリア、おもてなしで出された昼食の、よくローストされた無塩ミックスナッツにも手を付けられず、
トタタタタ、とたたたた!全力で逃げています。

「まて、ネズミさん!まてッ」
カナリアを追いかけるのは神社の子狐。
コンコン子狐は管理局の、「職員のハムスター『カナリア』」を、ちゃんと理解していますが、
それはそれ、これはこれ。
狐の本能として、なにより遊び盛りの子狐なので、
ついつい、追いかけてしまうのです。

ハムさん、ハムさん。
今子狐は、君の背中を追いかけています。
今子狐は、君の背中を子狐パンチしたいのです。
食べはしません。ただ、遊びたいのです。

「いやいやいや、コレは、僕ぜったい、食べられちゃうよ!ねぇルリビタキ!子狐を止めて!」
「まてっ!ネズミさん、つかまえてやるぅ」
「ネズミじゃないっ!僕は、『世界を崩壊させるリスクを持つ侵略生物』、セカイバクダンキヌゲネズミの亜種!概念ハムスターだぞ!」

「おりゃっ」
「ぎゃぁ!!」

とうとう疲れてきたらしいカナリアを、コンコン子狐、見逃しませんでした。
ハムさん、ハムさん。
今子狐は、君の背中に追いつきました。
今子狐は、君の背中を、こんこんパンチしました。
傷つけはしません。ただ、遊びたいのです。
ぽぉん!と吹っ飛んだカナリアの体は、子狐のナイスな力加減で、ふかふかモフモフのクッションの上にポフン!安全に着地しました。

ところで「世界爆弾絹毛鼠」の亜種、「概念ハムスター」とは何でしょう。
それはすなわち、身の危険を感じたときに、自分の身に宿る個々固有の「ひとつの概念」を、一時的に発芽させるハムスターなのです。
カナリアは、花粉の概念の持ち主でした。
そしてカナリアは、身の危険を感じたので、
まさに一気に室内で、大量の花粉を、 モフッ。
まき散らしたのでした。

「わっ。なんだ。なんだ」
くしゅっ、くしゅん!
遊んでいたハムスターが突然花粉をまき散らしたので、なによりそれをモロに浴びたので、
子狐コンコン、くしゃみしてびっくり。
ハムスターで遊んではいけないと、学習します。

ぶるぶるコンコンおきつねドリルを繰り返して、花粉を振り払おうとする子狐と、
モフモフクッションの上で腰を抜かし、固まってしまっているカナリアをジト目で見て、
「……はぁ」
カナリアの同僚のルリビタキ、今日も平和だと小さなため息を、ひとつ吐いたとさ。

2/10/2025, 3:37:16 AM