安心しきった顔で眠る女の顔を眺める。月の光に照らされる肌は銀のようだが、指で触れると予想に反した柔らかさがあった。少し沈ませてみれば睫毛が震えるのがなかなか面白い。目が冴えた夜は横で眠る恋人を眺めるに限る。
ふと時計を見れば深夜二時。とうに日付は変わっていたらしく、窓の外も静かなものだ。ともすれば、昨日までの恋人は死んでしまったらしい。昨日の罪を背負い、死によって償ったというわけだ。俺たちは生まれながらに罪を押しつけられ、償いの真っ最中だと聞いたことがある。
明日のお前と、昨日の俺。『今日』が示す日にちは同様でありながら、そこには明日と昨日が交差している。彼女を愛するべきは明日の俺であって、もしかすると昨日の俺がつついて楽しんでいい存在ではなかったのかもしれないが、まぁいいだろう。
くだらないことを考えていると眠気が少しずつ湧いてきた。ようやく苦しまずに死ぬことができそうだ。手を伸ばしてカーテンを閉め、暗闇に沈むベッドを軋ませて脱力する。明日の俺に、昨日の俺の死を捧げてやろう。
『昨日へのさよなら、明日との出会い』
5/22/2023, 3:50:36 PM