(二次創作)(君の目を見つめると)
「君の目を見つめると、……一歩も動けなくなるんだけど?」
牧場主ピートのやや投げやりな言い方に、魔女さまは嬉しそうにくるりと回った。当然だ、魔女さまから目を離せないようになる、呪いじみた魔法を使ってある。魔女さまにとって、ピートは恰好のおもちゃなのだ。
ピートが魔女さまの家を辞したのは、夜中を過ぎて早朝だ。とても眠いし疲れているので、自宅に帰ったらそのまま寝るつもりである。そうして昼過ぎに目が覚めて、畑の世話と家畜の餌やりをしたら、また魔女さまの家に行くのだ。決まりきったロボットのように。
それでも、牧場は少しずつ豊かになり、ピートの暮らし向きもよくなっていた。相変わらず人々との交流は最低限だが、もともと度を超えた怠け者だったピートが顔を出さなくても、誰も何も言わない。
「ピート、また魔女さまのところに行くの?」
唯一、ピートを気にかけてくれるのは、色とりどりのコロボックルたちだった。ピートは頷く。そう、今日も魔女さまに会いに行く。だって自分は彼女の絶好の玩具なのだ。
「ピートはそれでいいの?好きな人間はいないの?他にやりたいことはないの?」
「うーん……」
女神さまは助け出した。牧場仕事は苦にはならないが好きではない。ぐうたらしていた人間で、趣味らしいものも特にない。
「まあ、魔女さまが僕を必要としてくれるなら」
もしかしたら魔法で魅了されているだけかもしれない。先ほどの言葉も、自分の本心ではないかもしれない。それでも、構わなかった。魔女さまがピートに飽きるその日まで。あるいはピートの命が尽きるその日まで。
(なんて、死んでも生き返されそう)
「あら、よくわかってるじゃない♪」
当たり前のように心を読み、神出鬼没、急に姿を現すのは魔女さまだ。ピートは、ふっ、と表情を綻ばせる。
「お手柔らかにね、魔女さま」
4/8/2024, 10:01:16 AM