「……ん、俺、寝てた?」
目が覚めると、彼女の顔があった。
優しい目をして俺を見下ろしている。膝枕で寝ていたみたいだ。いつのまに。
俺は身を起こした。衣服の乱れを整えてベッドから腰を上げる。
「疲れてるわ、忙しいの?」
「うん、選挙がもう少しであるから、準備に追われてる。ーーしまった、会議があったんだ」
忘れてた。他の連中が探しているに違いない。
「無理しないでね、倒れたら元も子もないわ」
「倒れたらここに運ばれるだろ?そうすれば君に会える」
「ま」
嬉しそうに頬を染める彼女の頬に手を添えて、俺はキスを刻んだ。長めのキスになる。
清潔な白いカーテンに視界は遮られている。
「しばらく会えないわね、つまらないわ」
少し拗ねた風に彼女は呟く。
「ここに来ればいつでも会える、またベッドで横になりたい時に借りに来るよ」
束の間の休息が得られるのは、校内でここだけ。
「ん、」
もう一度キスを交わしてから。俺はカーテンを開けて部屋を出ていく。
彼女が心配そうに「無理しないでね」と囁いた。
「ーーあー! どこ行ってたんですか会長!探しましたよ、会議始まります、早く早く!」
保健室を出たところですぐ、執行部の後輩に捕まる。
「って、会長どこか身体の具合、悪いんですか」
保健室と書かれたプレートを見上げながら尋ねる。
「ああ、いや、ちょっと絆創膏貰いに来ただけ
だよ、悪かった、すぐ行くよ」
「あ、服部くんこれ忘れてるわよ」
行きかけたところを呼び止められる。見ると中居先生が戸口で絆創膏をひらひら振っていた。
「ありがとうございます」
何食わぬ顔でそれを受け取り、俺は生徒会室に向かう。
後輩は、チラチラ背後に目をやりながらついてきた。
「養教の中居先生、きっれーだなア相変わらず。30前でしたっけ?彼氏とかいるんすかね」
「さぁな」
俺はそらとぼける。
「珍しく白衣の前、はだけてましたねえ。白衣の下、ワンピでしたね、エロいっすね、ワンピに白衣って」
思春期爆発で後輩はぐふふと嗤う。
「何言ってんだバカ」
彼氏はいるよと内心言ってやる。
中居先生の膝枕を独占できるのは生徒会長の俺だけだ。
#束の間の休息
10/8/2024, 11:59:55 AM