胸の鼓動
私には、高校に入ってからずっと片思いをしている男の子がいる。
彼の名前は岸君、優しくてかっこよくて人気者。
私とは全く持って真反対な人間だから、付き合いたいとか思ってるわけじゃない。
…はずだったのに、修学旅行の班が一緒になったのをきっかけに少し仲良くなってしまった。
クラスメイトとして優しく接してきていると分かってるのに、頭の片隅で期待してしまう。
放課後、私は係の仕事で教室の花の水を変えに行っていた。
教室に戻ろうとした時、中から話し声が聞こえてきた。
その声に、ぴたりと扉を開けようとしていた手が止まる。
(岸くんの声だ…。)
少し罪悪感を感じながらも、私は聞き耳を立てた。
声からして、教室の中にいるのは岸君とその友達数人。
どうやら忘れ物をとりに来たらしく、ついでに雑談をしていた様だ。
「そういえば岸、最近加藤さんと話すこと増えたよな。」
急に聞こえてきた自分の名前に、心臓が飛び出るかと思った。
実に心臓に悪い。
「確かに、もしかして好きなの?お前ああいう感じが好きなわけ?」
なんて、私の気持ちを知らずにそんな声が聞こえてきた。心臓がうるさい、今思えばここで立ち去れば良かったんだ。
良い答えは聞けるはずないのに、彼の声を待っている自分がいる。
「違うし、加藤さん頭いいし仲良いと得じゃん?それにあんな地味な奴タイプじゃないって」
そんな岸君の言葉に対し、「だよなあ」なんて共感の声が聞こえる。
心臓はさっきと変わらずうるさいまま。
でも、さっきとは違う。
鋭い何かでグサリと奥深くを刺された様な、そんな冷たい感覚。
「…馬鹿みたい。」
色々な気持ちが混ざり、胸の鼓動が激しくなる。
こんなの初めてだ。
私はどうする事もできなくて、ただそこで立ちすくんでいた。
9/9/2024, 8:31:56 AM