シシー

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 私はいつも無力だった



 怪物で溢れかえったこの世界で、何かしら能力を持たねば生きていけない世界で、私は無能で無力だった。

 幼い頃、遊びに行った海岸で巨大な龍のような怪物に襲われたときだ。勇敢に立ち向かう人々が食い散らかされるのを近くの洞窟の中から見ていることしかできなかった。

 あるときは、死の間際にいる人への慈悲を与えるのも癒しを施すこともできずその手を握り続けた。苦悶に顔を歪め繰り返される恨み言に返す言葉もなく最期を看取った。

 この前は、花を供えた場所が荒らされ弔いも拠り所もなくした人々が怒り狂った。荒らした怪物は討伐されたが花を供えた私は誰にも気に留められることなくその場を去るしかなかった。咎められることも償うこともできなかった。

 それでもできることといえば、ここまで生きてこられたこの悪運でたった一人を守り抜くことだけだ。この手で抱きしめて離さなかった存在だけは怪我1つなく生き残る。
病は癒せずとも祈りを捧げることで最期を見届けることができるから、遺した言葉も伝えられる。

 「あなたはわたしの希望よ」

 愛する我が子を私に抱かせて小さな額に口づける母親。そして私の目を見て迷いなく言い切るのだ。我が子を生かしてくれ、と。焼かれ赤く爛れた両手の代わりに私を選んでまた戦場へと向かうのだ。



 私はいつも無力だったのに



             【題:たった1つの希望】

3/2/2026, 4:03:58 PM