不者

Open App


 君の眼が好きだった

 驚くと何度か右上に
 逸れる様が愛しくて

 だから 付き合う前から
 君を 驚かすのが好きだった

 三年目に告げて
 久しぶりの癖の後に
 むくれた君が愛しかった



 久しぶりの君
 新しい春服 似合わないヒール

 君のお気に入りの香水は
 いつもお出かけ用で

 僕の部屋につけてくるのは
 思えば初めてだね



 君と生きるための仕事が
 君と生きることなんて知らず

 僕らはずいぶんと翻弄されて
 電話越しの君の声は きっと

 愛しかった仕草ではなかった



 髪はぐしゃぐしゃ
 リップは取れかけ ピアスは片方

 君のお気に入りの香水は
 今日はアルコール混じり

 僕の部屋に泥のように雪崩れて
 夜明け前の二日酔い



 とっておきのお粥
 出汁は隠して 梅肉は多め

 君のためのレシピから
 ようやく君に振る舞えた



 暖かいお茶を淹れて
 君のために冷まして

 お酒に弱い君が それにしても
 泥のように口を噤んでいるから

 もしや熱でもあるのかもしれない



 久しぶり 額へ口吻
 久しぶり 君の視線

 ほんの一瞬 身体を強張らせて
 君は 久しぶりに瞳を揺らした

 それは驚きだと知っていた






 それから君は

 涙を落として
 瞳を隠したので



 それはもう

 僕の知っている仕草では
 なくなっていた
 











―――――――――
(二人だけの秘密)

 

5/3/2024, 7:24:13 PM