薄墨

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くっきりと青色が貼り付いている。

快晴の、茹だるような暑さが揺らいで、太陽が地上を焼いていた。
揺らいだ暑さはいつまでも地面に縫い付けられて、陽炎と呼ばれて、そこに居た。

…ようやく、花が咲いた。
前に蒔いた種が、苗になり、蕾を綻ばせた。
葉に這い寄るナメクジに塩化ナトリウムをかけた。

花咲いて。

大輪のヒマワリは、太陽の方を向いて、堂々と一本立ちしていた。
けたたましいセミの波長と太陽の熱光線に祝福されて、ヒマワリはまっすぐに太陽を見つめていた。

花咲いて、
ヒマワリを抜くことにしたのは君だった。
一番立派に育ったヒマワリを、根ごと掘り出して、無邪気な笑顔を浮かべて君はヒマワリを抱きしめた。

私がこの地に降り立った時、同じ笑顔で君は言った。
「せめてこの種だけは育てさせて」
「花が咲いて、花が咲いたら…あなたにきっとぴったりな花だから」

だから私は待った。
この星で半年と数える期間を。

しょうがない。
だって一目惚れしてしまったのだ。
地球人とは存外無力で可愛らしく感じたから。
歪んだり慌てたりするのを眺めるのは、最高に可愛い素質がありそうな星だった。

ここまで強かだとは思っていなかった。

両腕に痛みが走る。気のせいだ。
もう私は故郷に帰ることはない。

花咲いて。君笑って。私の腕舞って。
私はこの青色の空に閉じ込められた。
ヒマワリのように、太陽のように、眩しくて大きな笑顔に捉えられてしまったから。

花が咲いたから。

愛とはなんだろう。
私はこの星の支配種族たる人を愛していた。愛でたかった。
なのにこんなことになるなんて。

巻きついた鎖。
地に縫い付けられた足。
ない両腕。
取り上げられた宇宙船。
頭上に蓋をする、悍ましい青色の空。

大輪のヒマワリを抱いた君の笑顔。

陽炎がゆらめく。
この茹だるような暑さは、私と同じ境遇らしい。

太陽はいつまでも燃えていた。
どこまでも、どこまでも、ヒマワリが続いている。
花咲いて。
こちらに顔を向けて。

けたたましいセミの波長が、いつまでも、いつまでも、空気を震わせていた。

7/23/2024, 1:18:12 PM