作家志望の高校生

Open App

退屈で眠たい、5時間目の科学の授業中。うつらうつらと舟を漕いでいると、ふと下からかさりと小さな音がした。下がりそうになる瞼をこじ開けて見ると、何やら小さく畳まれた紙が置いてある。咄嗟に浮かんだ顔に後ろを振り向けば、案の定、後ろの席に座る悪戯好きな彼が満面の笑みで小さくピースを送ってきていた。
とりあえず開いてみると、中身はよくある、授業中に回す手紙の定番だった。先生の口癖を数えてみようだとか、前の方に座っている某かが涎を垂らしているだとか、そういうの。普段ならくだらないと切り捨てるような内容だが、こうもつまらない授業の中では、それさえ面白く見える。俺は小さく千切った紙に返事を書いて、それから後ろ手で彼に渡してやった。
珍しく反応が返ってきたことに驚いているのか、それからしばらくは何も反応が無い。十分程してようやく、次の手紙が送られてきた。
この授業中の文通は、どれもまぁ幼稚で、くだらない。先生が意味のない母音を発した数をメモし、机の下でスマホを触る者をひっそり告発し、誰にもバレないように回すだけ。けれど、その2人だけの秘密感は、幼いまま変わらない男児としての本質を大いに喜ばせた。
結局授業が終わるまで文通は続き、俺と彼の筆箱の中には小さな紙くずの山が積もった。それをバレないようにと証拠隠滅するため更に小さく破き、ゴミ箱にパラパラ流し込んだ。ストーブから立ち上る一酸化炭素と重たい温かな空気のせいで、頭がバカになっていた俺達にとって、完璧なプランだった。
が、秘密の文通は普通にバレていたし、なんなら先生の愚痴を書き連ねた彼の紙が1枚、床に落ちていた。当然彼は放課後先生に呼び出されていたし、助けを求めるような目を向けられたがそっと目を伏せて見ないフリをした。
それでも俺は生徒指導室には呼ばれなかったから、やはり彼はバカだが友情に厚いいいヤツなのだ。
翌日。今度は昼の直前に垂れ流される睡眠導入のBGM。いっそお経のように聞こえるそれに嫌気が差した俺は、ノートの端をそっと千切って、彼に送る文を取り留めもなく書き連ねていた。

テーマ:秘密の手紙

12/5/2025, 8:04:30 AM