いつまでも降り止まない、雨
外はざあざあと雨が降っていた。アンは部屋の中から降りしきる雨と、その向こうを眺めている。
しかし雨は強く遠くは見通せない。
「……」
アンの唇は強く噛まれている。彼女の手元には何枚もの紙が握りしめられていた。くしゃくしゃの紙にはたくさんの数字が書き連ねられていて、近くの机にはペンとインクが放り出されている。
部屋の中は整然と片付けられていてアンの几帳面な性格が伺える。それだけに握りしめられた紙と散らかった机が目立った。
少ししてアンの視線の先に動きがある。雨の中を傘を刺した男女が歩いていく。
アンは唇を噛むのを止めてカーテンを閉めた。
それは数刻前のことだった。街の外れにある食堂の店主のアリスと経営担当のフィンが、アンの実家である牧場へやってきた。
いつもどおりアンはアリスと納品する食材の相談をして、その後フィンと価格や頻度について決めた。それはいい。いつもどおりだし、アリスがおみやげにとアンに持ってきてくれた焼き菓子はいつもどおりに美味しかった。
問題はその後だ。アンがアリスに加工肉の試作を出していたら、フィンと雑談をしていたアンの母親が言ったのだ。
「フィンはしっかりしているわね。アンももう少ししっかりしてくれたらいいのだけど」
「そう? アンは十分頑張っているし、俺だってアンやアリスの前でいいカッコしてるだけだよ」
そのやり取りを聞いて、アンは噴火しかけた。怒鳴り散らさずに済んだのはアリスが素早く気付いて部屋に返してくれたからだ。
どうして母はいつまでもアンを子供扱いするのだろう。フィンと比べてそんなにも自分は幼いだろうか。彼女は別にフィンのこと自体はどうとも思っていない。
だというのに、母は(父も)やたらとフィンと比較するようなことを言う。
それに対するフィンのあっさりした返しも腹立たしい。まったく相手にされていないのがわかる。
そんな風にいちいち怒り狂うから幼いと言われてしまうのだと察しているからこそ、母からの比較もフィンの返事もなにもかもに腹が立ち、腹が立つ自分にもがっかりする。
カーテンを閉めても雨の音は部屋に満ちている。アンは紙を投げ捨てて、ベッドに倒れ込んだ。
5/25/2023, 12:38:58 PM