星乃威月

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夏休み。
あまりの暑さにやる気もなくなる、そんな朝。
ふと、床に散らばったジグソーパズルが目に入った。

「子供が飽きたんですって!
 ソノ子、やる?」

「うーん……どうしよっかな~」

夏休みの宿題は、既に終わらせていた。
唯一の娯楽だったスマホゲームも、そろそろ飽きてきた頃。

たまには、普段しないような変わった事もいっか……。

おもむろに、パズルの箱を手に取った。
図面には、ディズニーキャラクターの可愛い絵柄が鏤められている。

「へー、1000ピース」

箱を開けた途端、立ち込める厚紙のような紙の香り。
ほのかに乾いた紙の味もする。
1つとして同じものは存在しない色とりどりの砕けたピース。
まだまだ山となってたくさん重なっていた。

思ったよりピースが多いな……。
出来るかなー?
以前は一人で1000ピースを作れたから、多分、今回も出来るだろう。

とりあえずピースを手にとり、図面を見ながら置いてゆく。
ピースは親指程度の大きさ。
小さくて軽いのに、なかなかしっかりした作り。
少しでも力を込めれば、簡単に降り曲がってしまう。
どんなにイライラしても、力まないことが重要だと感じた。

始めは枠から……。

平たい面のピースを探しながら、1つまた1つと机の上に置いていく。

右は緑、左は赤、上は青で、下は黄色。
真ん中は黒色で──。

図面とにらめっこしながら置いてゆく。
ピースはなかなか集まらない。

今度は同じ色や絵柄のピースに分けてみるが、どれ1つとしてハマりそうもない。
徐々に不安になってきた。

もしかしたら、このパズルは、今まで作ってきたパズルよりも、難易度が高いのかも知れない。

ハマらないまま時が過ぎ、イライラや焦りが募ってきた。

落ち着いて……私ならできる!
一先ず冷静になって、仕切り直し!

試しに1つまた1つ、コツコツ、コツコツと合わせてみる。

トン、トン、トトン……

机に当たる指の音に合わせ、ピースが1つ1つとはまっていく。

1つ目がはまり、2つ目がはまり。
3つ目がまって、4つ目も──。

ヤッター!やっと形になった!
超ー嬉しい!
あっ!こっちも、またはまった!
どんどんはまってくこのリズムが、なんだかめっちゃ楽しいな~!

辺りはシーンと静まり返った昼近く。
時計の秒針の音も、静かにカチ、カチ、カチッと時を刻んでいた。
コツを掴み、1つまた1つと、ピースがはまってゆく。

トン、トン、コツ、コツ、カチ、カチ。

時計の秒針と共に、徐々に形作られていくパズル。
色とりどりのピースが、気付けばディズニーの絵柄になっていった。

うあー!きれーい~!
顔ぐらいの大きさになると、想像以上に綺麗だな!

ピースの絵柄を頼りに図面とにらめっこ。

右は線の模様で、上にはこの絵柄が来るはずだから……。
ココじゃない、アレでもない。
もしかしたら、このピースなのかも──。

完成予想図を想像しながら、コツコツ、コツコツ。
1つ1つの想像が、1つまた1つと形になって、絵となる喜び。
些細だけれど、眩しい輝きが、そこには広がっていた。

我ながら上出来、上出来~!
思ってた以上に楽しいじゃん!
このまま順調にピースがハマっていけばいいのに……。


昼になり、家族に呼ばれた。

これでいいんだ、これで。

程々の所で切り上げるのも、時には肝心。
私は、昼食を取りに席を立った。

◇─◇─◇

何ヵ月をかけて、ようやく完成。

「いつの間に完成したの?
 スゴいじゃん!」

親からの一言。

褒められたい言葉が聞きたくて、頑張ったんじゃないんだけどね。

時に、諦めかけた時もあった。
挫折して、パズルを見たくない日もあった。
それでも、完成した時のキラキラした喜びや、迫力のある絵の素晴らしさ、完成したパズルの大迫力に感激して、時折眺めては喜びに涙ぐむんだ。

いつかまた、機会があったら、やりたいな……。

パズルは、山あり谷ありの人生と同じ。
完成した時の、絶景を眺めている時と同じ感覚が、心地好すぎて忘れられないんだ。
だから、ジグソーパズルは止められないね。




ー眩しくてー

8/1/2025, 9:20:52 AM