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美容室で髪を整えてきた。今後こんなふうに自分にお金をかけることはそうそうできるものじゃない、となかなかに奮発したメニューだった。おろしたてのコスメを使っておしゃれをし、ご機嫌な気持ちで鏡の前に座った。
居合わせたお客さんはどうやら妊婦さんだった。出産や育児に関する話を楽しそうに美容師さんとしている。嫌だなぁ、いつまでこんなに気持ちが歪むんだろう。手元の雑誌に目を落としながら、綺麗に微笑む女の人たちに、この人はいくつだろうか、結婚は、もう子どもは、なんてことを考えはじめる。時間の経過とともによれるメイクを見て気持ちも沈む。

「風に身をまかせ」。思い出したのは、職場の、7つ年下の後輩から「流されやすい人」と評価されたことだ。誰とも争いたくない、誰の悪口も言いたくなかっただけだった。その実、みんなを薄っぺらく肯定するような浅はかさがあったことは否めない。
仕事で少し達成できたことと肯定的なフィードバック。ちょっとした運動やサウナやカフェでの読書。前向きになれることや好きなことをして、自分を、世界のすべてを肯定できるような気持ちになっても、こういうちょっとしたことで、すぐに真逆な心持ちになる。吹けば飛ぶような自尊心と決意。私という人間の面白み、重量なんて、紙のように軽い。
そう、私はとっても軽い人間だ。だから、また好きなことを目一杯して、自分の機嫌取りをして帰ろうと思う。気持ちが裏返るように。
今日は晴れていたから、今週頭からずっとそうしたいと思っていたこと、観葉植物にたっぷり水をあげて外に出すことができた。元気でいてくれると嬉しくなる。こんなに小さいのに、ぎっしりとした土と根っこのおかげで吹き飛ぶことはない。
ここ数年、避けていたヒールのある靴を最近履いて出かけるようにしていてる。これもきっと、今後そうそうできることじゃないから。バランスをとるために猫背の背すじが伸びるのが嬉しい。髪を切ってますます軽くなった自分で、一歩一歩確実に歩いていく。

5/15/2024, 10:10:19 AM