愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐



「ほら、帽子かぶって」

「わっ」

迅は俺に帽子をかぶせると満足したように手を引いた。帽子の陰から女の子たちが歩いて来るのが見える。盗み聞くつもりは微塵もなかったが、横を通り過ぎる時にその子たちの話す内容が聞こえてきてしまった。

「今ここら辺に嵐山さんが居るらしいよ〜!」

「えー?どこ情報よー。でもまじだったら会いたい〜!」

女の子たちが通り過ぎると、迅が帽子のつばを持ち上げ、俺の顔を覗き込む。

「だってさ、嵐山さん」

「迅…視えてただろう」

「もちろん」

余裕そうな笑みを浮かべた迅が触れるだけのキスをしてくる。

「っ…ここ外…っ!」

顔に熱が集まるのを感じながら形だけの抵抗を示す。…そう、形だけ。好きな人にキスされて満更でもないのだ。

「格好いいヒーローの嵐山准は、おれにちゅーされるとこんな可愛くなるってあの子たち知らないんだなぁ」

言葉にされると途端に恥ずかしくなり、しみじみしていた迅の頭に勢いよく帽子をかぶせる。

「うおっ」

「……ばか」

くるりと背を向け歩き出す。
後ろから可愛い顔隠せだの何だのと聞こえてきたが、俺は無視を決め込むのだった。

1/29/2025, 6:02:56 AM