帰燕[Kien]

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作品No.97【2024/07/06 テーマ:友だちの思い出】


 これは、私が小学校の中学年——多分四年生の頃の話。
 私の通っていた小学校の運動場の隅には、走り幅跳び用の砂場があった。私は、クラスメイトのRという女子と、何を思ったのか、そして、誰が先に言い出したのか、よく憶えていないが、そこに落とし穴を掘り、別のクラスメイト女子を落とす作戦を立てた。
 五時間目が始まる前の四十五分の休み時間に外に出て穴を掘り、バレないよう落ちていた大きな葉で蓋をして、さらにそこに砂をかけて——そうして彼女を落としたのだ。
 しかしそれが、ほんの序章であることに、私もRも気が付かなかった。
 落とし穴に人を落とすことに楽しみを見出してしまったのだろう私とRは、その後もクラスメイト達を次々とターゲットにした。すると、「自分もやりたい!」と言う者が現れ始めたのだ。二人だけで始めたそれは、三人、四人と増えていった。男子も女子も関係なく、落とし穴掘りに夢中になった。そしてそれと共に、落とし穴も大きくなり、やがて砂場の底に到達するほどの深さにまで成長した。砂場に底があることを、私はそのとき初めて知って、妙に感動したのを今も憶えている。
 そんなふうにして、私達はその一年度を過ごしたのだが、その年度の終わり、Rは転校してしまった。そうして、クラスメイトのほとんどを巻き込んだ落とし穴掘りも、その年度で自然と終わりを迎えた。確か、穴もそのとき埋め戻した記憶がある。
 今思えば、よく先生や他の児童にバレなかった——というよりは、問題視されなかったといった方がよいだろうか——ものである。ガラの悪い人間の多い地域であるから、そんなことが見つかれば、呼び出しは免れなかったろう。そうならなかったのが、不思議である。
 Rとはその後、中学に上がってから再会——といっても、クラスは別だったが——するのだが、向こうは私を憶えていないようだったし、なにより私とは趣味の異なる人物となっていた。スポーツが得意でバスケ部に入っていた活発なRと、スポーツが苦手で読書にのめり込んでいた消極的な私とでは、最早話が合う関係ではなかったのだ。それでも、合同だった体育の授業なんかで彼女と顔を合わせると、あの頃、落とし穴を掘るのに夢中になった、私達を思い出した。
 思えばこれが、数少ない友人とのキラキラ輝く楽しい思い出、なのかもしれない。

7/6/2024, 2:49:48 PM