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ぴちゃん、ぴちゃん。と、
雫が、水を打つ音が響いている。

暗い部屋、開けっぱなしの浴槽から、
湿った空気が流れ込み。

男は何をするでも無く、瓶を煽っていた。

背後にはガラス張りの棚。
輝くバッヂ、年季の入った帽子に並んで、湿気を吸って丸まった賞状が、気づかれないまま転がっている。

いったいいくつ、月はのぼったのだろう。
空になった瓶は、これで何本目だろう。

そんな風に考えながら。
窓から覗く上弦に、重ねるように煮干しの腹を並べ、そのまま喰っては瓶を煽る。

つまんねぇな───。

まとまらない思考を押し退けて、
無意識にソレを口にした瞬間。

衝動に任せて瓶が宙を舞った。

割れる破片、散らばるガラス。

頭が冷え、立ち上がった男の頭に、
帽子が落ちてくる。

足元に転がる賞状に、一滴。
血の雫が染み込むのを見て、慌てて姿勢を正し腰に手をやる。

期待した感覚は無い、代わりにあったのはツマミに用意した袋の潰れた感覚だけ。

呆然とソレを見て、その手のひらに雫が落ちた。

あぁ、ちくしょう…
切り傷ってのは、こんなに痛ぇのか───。

4/21/2026, 12:17:46 PM