はて、何をしていたのやら。
すっぽりと抜け落ちた記憶の中、つい先程までの僕に、目の前の青年はどう関わっていたのだろう。
「はじめまして。申し訳ないけれど、君の名前を教えてもらってもいいかな?」
そう言えば、目の前の彼は酷く傷ついた顔をした。
今にも泣き出しそうな顔のまま、下手くそな笑顔を浮かべる。
あぁ、多分、君と僕は「はじめまして」じゃあないんだね。
でも僕は、君のことをちっとも覚えちゃいないんだ。
ひゅう、と冷たい風が吹き抜けていく。
無慈悲な秋風は、君の涙も、僕の記憶も、全部攫って去っていく。
ねぇ、泣き出しそうな知らない君。
僕はあと何度、君と「はじめまして」を繰り返せばいいだろう。
[秋風]
11/14/2023, 12:49:41 PM