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「何故、春(しゅん)…貴男が此処に居るのですか。」

「お久しゅう御座います、高(こう)様。」

高様は私を見るなり、泣き崩れる。

私は高様のもとへ駆け寄り、強く抱きしめた。


高様と私は、帝に直接仕えながらも『宦官』と『間者』という

あまり日の目を見ない、低い地位が共通点となり、月に一度は会う仲だった。

私は三十歳を節目に『間者』を辞し、手紙のやりとりはあったものの、

最後に高様とお会いしたのは、二十年くらい前だ。



「こんな姿を春には、貴男だけには…見られたく無かったのに。」

「高様、先の話や現状など…お聞きしました。」

「そうでしたか。」

高様は、顔を暗くされまが…どこか安堵しているように見えた。

「先の件…帝の遺言を偽り、帝の嫡子様や嫡子様の臣下を殺めるように

 仕向けたのも、高様がお仕えしていた二世皇帝が暗殺されたのも、

 高様、貴男が謀ったことなのですか。」

感情による震えを必死に抑えながら、高様の応えを待った。 


「紛うことの無き、この私、趙高が成したことです。」

先程とは異なり、私と目を合わせ、明瞭な声で申し上げられた。

「ならば、高様…貴男様のお命を頂戴させて頂きます。」

私は、浅く息を吸う。

「私は、高様…貴男様を殺める為に都に呼び戻されたのです。」

私は、今にも涙が零れ落ちそうだった。

高様は、穏やかに微笑まれ、覚悟を決められた表情をされていた。

「申し訳、在りません。貴男様に一回でもお会いすれば、良かった。」

私は涙を流しながら、悔いた。

「過ぎたことは、もう変えられません。」

高様は、私を抱きしめた。

「春、どうか私を殺めて下さい。貴男に殺められるなら、本望です。」

「承知致しました。」

高様は正座をされ、背筋を正された。

私は涙を拭い、高様の横に立ち、左上段に剣を構える。

「行きます。」

私は、高様に最期の言葉を掛ける。

「今迄、ありがとう。」

高様は、静かの最期の言葉を申し上げられた。

私は、剣を振り下ろす。

一太刀で、首の皮一枚残し、高様の首を刎ねた。

高様の首は、高様の膝下に落ちた。














6/8/2024, 4:19:57 PM