『絆』
アスファルトから立ち昇る陽炎を見るたび、ふと思い出す風景がある。
小学校の裏山にあった、古い廃材や段ボールを寄せ集めて作った小さな秘密基地。自分と、近所の友人たち数人で作り上げた、あの頃の自分たちにとっての世界のすべてだった。
手や膝を泥だらけにしながら秘密基地の「防壁」を補強し、誰かが家からこっそり持ち出したぬるい麦茶を回し飲みする。ただそれだけのことが、どうしようもなく誇らしかった。やがて町に夕焼けのチャイムが鳴り響くと、魔法が解けたように慌てて荷物をまとめ、「また明日」と短く約束して、それぞれ違う方向へと走って帰るのだ。
今ではその裏山も削られ、見通しの良い無機質な住宅地に姿を変えてしまった。彼らとも進学や引っ越しを機に疎遠になり、最後に言葉を交わしたのがいつだったかさえ定かではない。大人になった自分が今、街角で彼らとすれ違ったとしても、互いに気づくことすらないだろう。
形あるものはとうに消え去り、無邪気な約束も時間の中に溶けてしまった。それでも、夕暮れのひぐらしの鳴き声とともに、背中を押し合うようにして笑い合ったあの熱を帯びた記憶だけは、今も自分の中で静かに呼吸を続けている。
永遠に続くと思われたあの狭くも豊かな世界で。
そこには確かに絆があった。
3/7/2026, 10:57:46 AM