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#9『鋭い眼差し』

 向かいのピアノに座るのは、色白の肌に栗色の髪で、なんだかハーフみたいな顔立ちの彼。久しぶりの連弾で心が弾む。ちょっぴり緊張もするけど。
 
 毒舌でSっ気があって無表情なものの、テニスもできてモテそうなのに、学校では独りでいることが多いらしい。まあ、こちらとしては取られる心配がなくて助かる限りだ。

 楽譜を広げて彼の方に目をやると、突状棒で抑えた屋根と譜面台との隙間で視線がぶつかる。……びっくりするでしょうが。毎日のように顔を合わせているのに、ふとしたことで胸がキュンとなってしまう。指をグーパーさせて準備OKを伝える。

 彼の優しい最初の1音が好き。空間に溶け込むように響き渡って、誰よりも甘く弾いてくれて。これを聴けるのが私だけだと充足感を得ずにはいられない。彼はまた、私の音が好きだという。あなたに勝るピアノはないのに。

 互いに求めて与え合う、そんな関係。ただ、側にいてくれればいい。2人でおはようって言って始まる朝に、たまに授業中にLINEして、放課後とか休日にゲームして。仲の良い女友達にも言えないことを気負わず話せて、私が私でいられる場所。

 彼の音が止まって不思議に思えば、隣に来て同じ鍵盤をなぞり始めるもんだから、自然と笑みがこぼれてしまう。もう少しだけ、このまま。

10/16/2023, 9:15:07 AM