昔見た、水面に宿る彗星に目を奪われた。
それ以来、本来目があるはずの場所はぽっかりと穴が空いている。
移動する時は手すりがないと不安だし、点字ブロックを踏み外した時の崖から転落するような心地は肝がヒヤッとする。
でも、見たくないものを見ずにすむから案外いいのかも。
こんにちは
2時の方向から聞こえてきた。
あなた、お目目が真っ黒なのね
私は耳がないの ほら見て
あ、でもあなたには見えないね
じゃあ はい
生暖かい感触が手の甲を握り、柔らかくふわっとした手触りにドキッとする。恐る恐る触れる部分をなぞるように手を回すと確かに凹凸がない。
私は昔、花火を横切る彗星にやられたの
あなたは鏡に映るやつとか?
何かと不便だよね、この呪い
なぜか初めて会うこの人の声にほだされる。
ねえ、もしも元通りになったら1番に何を見たい?私はね、何よりもあなたの声が聞きたいな
ずっと私ひとりで喋ってて、ずーっと聞いてくれたのはあなただけよ
この呪いが解けたらいいのにって強く思ったのも今日が初めて
少し声が小さかったけど、はっきりと聞こえた。
そう言う君の顔はどんな顔をしているんだろう。
.誰よりも
2/16/2024, 12:35:20 PM