愛してる。ずっとあなたを想っている。さよなら、愛しい子。
優しそうな女性の声。何度も繰り返した想像。赤子だった僕は、実際のことは覚えているはずがないのに、いつのまにか質量を持って、色鮮やかに蘇る。
なんだか、体温まで本物のように。
愛されている、と思いたかった。泣く泣く、僕を手放したのだと。きっとなにかどうしようもできないような切羽詰まった事情があったに違いないのだ。今でも僕の写真を大事に持っているのだ。赤ちゃんだったころの。
今はこんなに立派になったよ、と再会し、思わず抱きしめる想像も欠かさない。会ったら、すぐにわかるはずだ。この人が母親だと。そして、僕があの離れ離れになった愛しい息子なのだと。泣いている母をぎゅっと抱きしめる。そして、一緒に暮らすのだ。きっと、二十年の空白はすぐには埋められないけれど、それでいい。ゆっくりやり直せばいい。
本当に? と言う声が暗い底から聞こえる。
本当に愛されていた?
ただ捨てられただけじゃないのか。望まぬ妊娠の末に、生まれただけじゃないのか。殺すぐらいならと、手放しただけ。僕はたまたま生きていただけ。
そんな考えに僕は頭を振る。いや、僕は愛されていたのだ。生まれたときは、祝福されていたのだ。愛しているよ、と。
10/26/2023, 11:12:53 AM