『寂しくて』
今日もまた、時計の針が日付をこえた。
シンと静まり返った部屋で、私はベッドに潜り込み、スマートフォンの画面をただスクロールする。
「……さむい」
誰にともなく呟いてみるが、壁は冷たい沈黙を返すだけだ。
メッセージアプリを開けば、グループチャットには楽しそうなスタンプや短い会話の履歴。
私が入れる隙間はない。
冷蔵庫には作り置きの惣菜。洗濯物も畳んである。部屋も、奇麗とは言えないがそこそこ片付けてある。
やるべきことはやっているはずなのに、満たされない虚しさが胸の真ん中に居座っている。
それが、冬の夜の底冷えのようにひたひたと、確かな痛みとして私を覆う。
耐えきれず、ベランダに出た。
夜風は冷たく、街の灯りがやけに澄んで瞬いている。
この街に、私と同じ思いを抱えた人は、一体どれほどいるのだろう。
ぼんやりとそう考えたとき、下の階の窓から小さな明かりが漏れているのが見えた。
誰かが、まだ起きている。
それだけのことが、ほんの少しだけうれしい。
私は冷えた両腕を何度かさすり、再び部屋に戻った。
明かりを消しても、その小さな窓の光だけが瞼の裏に焼き付いていた。
11/11/2025, 4:08:57 AM