郡司

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遠くの街へ……これまでに訪れたことのある、いちばん遠い街を思い出してみる。

伊勢だ。伊勢神宮。街じゃないけどまあ良い。

当時の私はまだ就学前の年齢だったが、伊勢の記憶は鮮やかに残っている部分が多い。最も鮮明で、かつ大好きな記憶は、五十鈴川である。

だいたい私は、たいていの場所の水が怖かった。長じてみると、何故「怖い」と感じていたのかは解るようになったが、幼児のときは、“理由はわからないけどここの水は怖い”ところがほとんどだったから、五十鈴川の「まったく怖くない、あかるく澄みきった水の流れ」には本当に嬉しい新しさを感じたのだ。しかも当時、五十鈴川には錦鯉が放されていて、私は五十鈴川の縁にしゃがみ、水の中を飽きずにのぞき込んでいた…ら、母が何か叫びながらこちらへ走ってきて、あっという間に私の襟首を掴んで川から離してしまった。

私はとても残念な気持ちだったが、今考えると当然だった。常識的に、幼児の体格で川に落ちれば危ないと判断する。…今もって五十鈴川でそんな危険があるとは思えないというのが私自身の本音だけれども…でも、そんな私も自分の子どもが同じことをしていたら、母と同じようにするだろう。

友人が昨年の夏に伊勢詣りに行ってきた。今の五十鈴川には錦鯉は居ないと言っていた。

2/28/2024, 1:07:57 PM