セイ

Open App

【お祭り】

太陽がギラギラと照りつける8月の暑い日。
男は大きな山に囲まれたド田舎の村にいた。

趣味である一人旅で辿り着いた少し閉鎖的な感じのする村。
男は村に入ってすぐに出会った「ヨシ」と名乗るお婆さんと仲良くなり、暫く家に泊めてもらえることになった。

「何か…外ガヤガヤしてますね」
「そりゃあ今日は『クギの日』じゃけぇ、外もうるさなるもんじゃ」
「クギノヒ?」
「簡単に言うとな、村んの神様に今年の豊作を願うお祭りの日じゃ。出店もミシロ様の踊りもあるけぇ、おめさも後で行ってみんしゃい」

夜になり、男が窓の外を見るとポツポツと提灯の明かりが灯り始め、何やら楽しげな音楽が流れ始めた。
そろそろ行こうかと男が支度しているとヨシが男の所へやってきた。
「コレを首から下げて行きんしゃい」とヨシから渡されたのは鳥居のようなモノを二重丸で囲ったような絵が書かれた小さな木の札。
上の方に空いた穴に長い紐が通されていて首から下げられるようになっていた。

首から下げて出店に行くと、店の人はニコニコしながらタダで食べ物をくれたり好きなだけ遊戯をさせてくれた。
この木の板は村の人にとっては何か特別なモノらしく、男はラッキーだと思いながらお祭りを楽しんだ。

男が酒を飲みながら歩いていると、ワラワラと人が集まっている場所を見つけた。
気になった男は人の間を縫うように移動し、前の方へ行くと中心では白い着物を着た中学生ぐらいの女の子が踊っており、周りの村人たちはそれを真剣に見ていた。
男がキョロキョロと周りをみていると隣にいた髭面の男が話しかけてきた。

「おう、坊主。クギの日は初めてか?」
「えぇ、まぁ…あの女の子は?」
「アレがミシロ様だよ。可愛いもんだろう?」
「アレが…。僕、ミシロ様と話してみたいです」
「それなら、あの階段の先にミシロ様の護衛がいっから首のソイツを見せれば通してくれる筈だ」

男は階段を登った。
直前の酒のせいで若干足元が不安定だったが、それでも「可愛い女に会う」という強い意志と根性だけで登りきった。
髭面の男が言った通り、階段の先には護衛と思われる槍を持った男が立っていた。

「君!ここは関係者以外立ち入り禁止だ…って…あぁ、ヨシ婆さんが言ってた子って君のことか。なら大丈夫、急に大きな声出してすまないね」
「いえ…あ、あの!さっきの…ミシロ様に会いたいんですが…」
「ミシロ様?それならそこの洞窟さ。もうすぐ儀式が始まるから行くなら走って行きな」

護衛の男に言われた通り、男は洞窟を走った。
暫く走るとボロボロで小さな社の前に座り込むミシロ様の姿があった。

男が立ち止まるとミシロ様はスッと立ち上がり、男の方を向いた。
そして何かを呟いた後、ミシロ様は男の方へと数歩近づいた。

「供儀(クギ)の日に来てくれてありがとう。貴方のお陰で私は『ミシロ様』を貴方に引き継げる」

そう微笑んだ「ミシロ様だった少女」の瞳には「ミシロ様」と「ミシロ様」の後ろで暗闇で怪しく光る赤目と鋭い牙がズラリと並ぶ大きな口の「ナニカ」が映っていた。

7/28/2024, 11:04:06 PM