小学生くらいの頃だった。
友達と遊びに来ていた遊園地で、お気に入りのキーホルダーをなくしてしまったのだ。鞄につけていたはずの物が、いつの間にか飾りの部分だけが外れ落ちていて、慌ててもと来た道を引き返し、注意深く地面に目を凝らしたが見つからない。
もうダメかもと、そう諦め掛けていた時、ふいに視界の端から大きな手が覗いた。見上げるとそこにいたのは中学生くらいの少年で、彼が差し出した手の上には、自分がなくしたキーホルダーの飾りがちょこんと乗っていた。
「もしかして、これ探してるの?」
私が目を丸くしたまま頷くと、少年は「そっか、良かった」と微笑んで、そのキーホルダーを私の手に握らせてくれたのだ。
──あの時の私は少年にお礼のひとつも言えなかったけれど。いま彼はどこでどうしているのだろう。そんな遠い日のことをふと考えていると、ソファーに座っていた私の手を、隣から伸びてきた手に柔らかく握られる。
「どうかしたの? ぼーっとしちゃって」
「ううん、何でもないの。ちょっと昔に行った遊園地のこと思い出しちゃって」
「ああ! もしかして、これで?」
そう言った彼の視線の先にはカラフルな旅行雑誌があり、ちょうど特集ページの『おすすめの遊園地7選』が広げられていた。
「なんか、懐かしいなと思って」
「そっか。俺も乗り物とか好きでよく行ったなぁ」
あの頃にはもう戻れないし、あの頃に感じた思いをもう一度思い出そうとしても、もう手の届かない場所にあるのだけれど。
「それじゃあ今度の休みは遊園地にでも行こっか」
そう無邪気にはにかんだ彼は、私よりも年上であるはずなのにどこか子供っぽかった。私が「うん、そうしよう」と同意すると、彼の手が私の手を握り返す。何故だか遠い記憶に重なるように、懐かしさが込み上げてきた。
【遠い日の記憶】
7/18/2023, 4:47:59 AM