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『善悪』 2024.4.26.Fri

※BL二次創作 『A3!』 卯木千景×茅ヶ崎至










 善悪。善人と悪人。善い者と悪い者。どちらかに分類するのならば、俺は間違いなく後者になることだろう。倫理的にも、道義的にも、もちろん法律上でも、そう。みんなに言えないことをやってきたし、それが生き延びる術だった。オーガストとディセンバーを失って、俺がカンパニーで「春組の卯木千景」になるまで、俺は間違いなく組織の構成員、エイプリルだった。いまでもそうではあるんだけどね。本当は、こんな俺が、こんな穏やかなところで、こんな風に過ごす資格なんかないってわかってる。それでも、みんな言うのだ。俺は優しいとか、俺は甘いとか……そんなわけないのにな。「新しい家族」なんて、一生作ることはないと思ってた。あいつら以外の家族なんていらなかった。それなのに。

「どうしてこうなっちゃったんだろうな」

 後悔、しているわけではない。密を、新しい家族を、組織から守ると決めた日から、覚悟を決めている。それでも、巻き込んでしまったことに、いつか危険に晒してしまうかもしれない可能性に、罪悪感は拭えなかった。俺があいつらを大事に思わなければ、カンパニーに入らなければ、ディセンバーを信じてやれれば、オーガストが死ななければ、俺があの日の任務についていけたら……。詮無いことと分かっていても、思考は止められない。ああ、今日は調子が悪いな。ふー、と長く細く息を吐く。チェアの背もたれに体重をかけ、上を向く。眼鏡を外して眉間を揉めば、少しは思考も晴れるだろうか。そろそろ同室の後輩が帰ってくる頃だろう。この空気を纏っているのはあまり良くない。あいつはなんだかんだ人間の機微に聡いのだ。笑顔で「おかえり」を言うために、「春組の卯木千景」でいるために、一人ぼっちのエイプリルは奥底に仕舞う。どうせあいつにはバレてしまうだろうが、ポーズくらいは取らないと格好もつかない。可愛げのない後輩は、なんだかんだと軽口を叩きながらも、きっと俺の心配をするのだろう。たまの調子の悪い日くらい、素直に甘えてみるのもいいだろうか。茅ヶ崎の反応を想像して、ふ、と笑みをこぼす。ここに居ないのに自然と笑顔になる。同室になったばかりの頃には想像もつかないことだった。なんだか無性に会いたくなって、早く帰ってこないかと、柄にもなく思いを馳せたりする。帰ってきたら、おかえりのキスでもしてみようか。俺はようやくチェアから立ち上がり、一〇三号室の電気をつけた。数刻前までの深刻さを振り払う。調子のいいことだ、やはり俺は悪人なのだろう。

 ――卯木千景の独白。

4/26/2024, 12:38:21 PM