仁翠

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#小さな命

「命って...儚いよねぇ」
背を向けて青空を眺める君の姿と共に、その言葉が何度も反響する。もう、耳障りなくらいに。
形のない記憶というものは、これほどまでに人の人生を左右するらしい。君の存在を忘れないというのは良いことなのかもしれないが、君の存在に縛られている僕はなんて浅はかなんだろうか。君の声すら忘れた僕に、何か意味があるのだろうか。

__真冬の候。真っ白な、命の始まりにも...終わりにもなる部屋。ベッド1つの閑散とした空間で澄み渡る青空を眺める君。口にした言葉は迫り来る“終わり”を危惧する様子も、憂色を浮かべる様子もなく、ただただ無頓着だった。いや、微笑さえ感じた。秒針が刻一刻と進んでいく。カチ...カチ...という機械音だけが響く。僕は、静寂を破ろうとはしなかった。

それから何日経っただろうか。
純白のベッドに横たわる1人少女の時間は終わりを告げた。ふと、秒針の音が聞こえないことに気がついた。壁掛け時計が止まっている。窓の外には彼女が見たい、見れないと嘆いていた桜並木。それも数日後には風と共に散っていく。人も、機械も、自然も、命というものは小さく儚いらしい。

僕は、命の儚さを教えてくれた少女に縛られて生きていくしかないみたいだ。

2/24/2024, 11:48:35 AM