2XXX年5月12。
地球に、想定外の変化が起きた。
巨大な隕石が、突如人々に降り注いだ。
人々が絶望にかられる最中、
一際冷静な1人。
男は、篠原準(シノハラジュン)といった。
とある人体実験で不死の体にされた、不幸な男。
彼は元奴隷であった。
彼は、幸せを知らなかった。
そこへもう1人、涼しい表情の女性。
女は、舞園由香里(マイゾノユカリ)といった。
とある事情で異世界から迷い込んだ、不運な怪物。
彼女はドラゴニュート(龍人)であった。
彼女は、愛を知らなかった。
絶望に包まれた、果てしない終わりの世界。
これからどうするのか。
どうしようもない、救いようのないこの世界で。
いっそのこと、心中しようか、2人で。
そんな話を女が持ち出したのは、
地球が死んでから約一月が経った頃であった。
男は言った。
死んだらもう、君と会えなくなる。だから、嫌だ。
そこには、確かな愛が芽生えていたと思う。
女も男も気づいていた。
だが、何も言わなかった。
なぜか。
そこに全く意味を見出せなかったからである。
デートもろくにできない世界。
交配もできない。
ましてや、一方は幸せが、一方は愛を知らない。
二人とも人間ではない。
ゆっくりと、ゆっくりと。
荒んだ世界を二人、歩いて行く。
音は、二人の呼吸音と足音だけ。
何も一言を話さず、ひたすら歩き続ける。
結局、このあと何をするかの結論は、
世界を見て回ろうということになった。
男は奴隷、女は異世界人。
世界を、知りたいと思った。
見てみたいと思った。
ただ、歩こう。
何があるわけでもない、世界の成れの果てを。
僕らはもう、1人じゃないから。
二人ぼっちの、この世界を。
3/21/2023, 12:58:33 PM