人間たる情緒たる大切たる何か。を欠落させてゆく人間たりたいおまえ。(どこまでも拾って追いかけるよ。って喉を震わして伝えてあげられなくてごめん。おまえにどうしても捩じ込みたい言葉ほど、どんどん臭くなっていってごめん。)
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案の定電車は発っていた。プラトニックじゃ救われないようだと、改めて肩を叩かれた。質量を増した憂いは肩に掛かっていたか、胸に罹っていたか。それでもいいと思ったのは、これ以上この目には何も映せないことを知っていたからだった。構内、酸っぽい匂いを嗅いだ。別れの時間だった。おまえの甘い。残り香を忘れぬうちに飛び込みたいのを堪えていた。お前がいなくなってしまって、嘘みたいに感情まで消え失せるのが死ぬよりも怖い。己の残り香はコリアンダーだった。はっきりとはわからないが、確かタバコとシナモンなんかも調香されていたはずだった。解像度は持ち得る限りの最高だったのに。聞いてくれ。失いたくないくせに、恥ずかしながら、おまえの香りは輪郭すらも掴めなかったよ。
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何処にもいかないって、わたしに言ったな。
おまえの吐く煙が、魂のようで見ていられなかった。毎日三箱ぶん、自殺をしているようだった。
おまえは先にいなくなる。そう確信している。
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―――ああ、そうだよ。おまえ。わたし。懸命だ。示し合わせたみたいに、からっぽだ。
幸せって言ったっきり、死んでしまえたら何れほどにか。
4/1/2024, 10:19:05 AM