わをん

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『だから、一人でいたい。』

いずれここを離れる身だから誰とも仲良くなりたくなかった。実際には周りの人間が世話焼きばかりで絡まれては距離を詰められ、結果的に仲良くなってしまった。
ここを離れる日。来た時よりも増えた荷物と持たされた手土産やらで手が千切れそうになりながらローカル線のホームから見送りを受ける。体に気をつけてだの、ちゃんと飯を食えだの、いい人を見つけろだの、余計なお世話ばかり。けれど自分も仲良くなった人たちに思い思いの余計なことばかりを言ってみせると、言うようになったなとみんな笑い飛ばしてくれる。少ししんみりと静かになったあと、閉まるドアをお互いが涙ぐんで見つめていた。
泣くのを見られて慰められるのもイヤだったから一人でいたいと思っていた。ようやく一人になった列車の中、持たされた手土産に堪えていた涙がぼたぼたと落ちる。みんないい人たちだった。こんなに別れがつらくなるのならやっぱり誰とも仲良くなりたくなかった。もう見ることのないかもしれない車窓からの風景を見ながら、もう会うことのないかもしれない人たちのことを想っていた。

8/1/2024, 3:37:23 AM