「終わりなき旅」
夕暮れが、私に何度やって来ただろう。
いちいち数えてるヤツなんかいないよね。
でも、日記をつけてる人間なら、数えてるのと同じになるかな。
…何処かに、夕暮れを数えて記録するヤツがいればいいのに。
もしかしてそいつを殺したら、私の時間ももとどおりになるかもしれない。
そう…見立ててみる。
もし、夕暮れを記録する人間に逢えたなら…。
そしてあなたを見つけた。
小さなスケッチブックをいつも持ち歩いて、公園や河川敷や喫茶店で、夕日の絵を描くのを日課にしているあなたに。
あなたはいつもひとりで、永劫の時間を過ごしているみたいだ。
文字通り、永劫の時間を生きる…いや…喰い潰している私という魔物よりももっと、深い孤独を生きているみたいだ。
静かに、息をひそめて、あるいは、
深く深く息をしながら…夕日を生み出す。
たったひとりで。
もしもあなたが誰かと親しく語りあいながら描いていたなら、私は見立て違いだったと退いただろう。
けれどあなたは、いつもひとりだった。
あなたを殺したら…私は有限の命に戻れる。
ただの妄想なのに、そう思ってしまった。
幻想なのに、
夕暮れが、私に何度もやって来る。のに耐えられなくて私は、あなたの後をつける。
あなたは歩く。私は歩く。どこまでも歩く……
そしてあなたの手の中の夕日が、真実沈む日が来れば…………きっと私も。
だけどその時、あなたは私を、振り向いたのだ。
そして、こう言ったのだ。
「終わりのない旅の終わりが、今、やって来ますよ…」
私は目を見開いた。
「なぜ、わかった?……いや、そんなことはどうでもいい。本当にそれはやって来るのか?」
あなたは笑う。
私は幻想の境界線を、私の時間の境界線を、いつのまに越えていたのだろう。
……いつから、狂った?
あなたは笑う
「さあ、どこからが夢だったんでしょうね?あなたが永劫の時間を生きている…それも夢かもしれない。」
「………」
「でも、まあ、難しいことは考えなくていい…。私があなたを…攫いに来たことだけが、本当だ。」
「……え?」
「逆なんですよ、全部。逆じゃない事なんかありゃしない。」
あなたが嗤う。
私はいつから、何に、捕まっていたのだろう?
そして、
夕日が沈んだ。真っ暗になった。
5/30/2024, 11:18:46 AM