川柳えむ

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 他愛もないことだったのかもしれない。放課後の教室で、君とあいつの距離が異常に近く見えたのは。
 それなのに、君は何事もなかったように話しかけてきたから、なんだか腹が立ってしまったのだ。

「なんで怒ってるの?」

 教室から出たところで彼とばったり会った彼女は、異変を感じて彼に尋ねる。
 彼はただ苦い顔をして「怒ってない」と一言言うと、すぐどこかへ行ってしまった。

 ――別に怒れる立場でもないのに。
 なぜだろう。彼女の隣は自分の場所だと勝手に思っていた。
 そして気付いてしまった。これが嫉妬だと。勝手に彼女を好いて、勝手に彼女の行動に醜い感情を持ってしまう。
 誰にも、譲りたくない。彼女の隣を、彼女を。

 鞄を置きっ放しだったことに気付いて、バツの悪い顔をしてあの教室へと戻った。
 教室に入ると、誰の姿もない――いや、カーテンに包まれた影が一つ。
 そっとカーテンに近付く。
 そして思い切りカーテンをめくると、中で声を押し殺して彼女が泣いていた。
 虚を衝かれ、固まってしまう。
 窓の向こうから射し込む光に、彼女の涙がきらきらと輝いている。

「……なんっ……何か、しちゃったの…………? な……なんで……怒ってるの?」

 しゃくり上げながら必死に言葉を絞り出している。
 ――違う。君は悪くない。
 そう思っても、上手く言葉にはならない。
 彼女に手を伸ばしかけたその時。

「――…………好き……」

 彼女の唇からぽつりと漏れた。
 窓から温かい風が吹き込んで、カーテンがふわりと舞い上がる。
 彼がカーテンの裾を掴んだ。
 膨らんだカーテンに、重なった二人の影が映し出された。


『カーテン』

10/12/2023, 1:05:32 AM