Ryu

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突然の夕立に、人気の消えた商店街の軒先で雨宿り。
通り雨だ。すぐ止むだろう。
先客がいた。うずくまる三毛猫。
恨めしそうに雨空を見上げている。

「お前も雨宿りか」
「にゃあ」
間違いなく、猫だ。
「次の取引先の客を待たせてんのに、こんなところで足止めだよ。びしょ濡れじゃマズイし、店もやってないから傘も買えない。まあ、俺が天気予報を確認して傘を持ってくりゃ良かった話だけど」
猫は黙ったまま、俺をじろりと睨む。
不敵な面構えだ。可愛くはない。
でも、愛嬌だけは…いや、ないか。

「お前も誰かに飼われてりゃ、こんなとこで雨宿りしなくてもよかったのにな。お互い、不憫な境遇だよな」
「にゃー」
「取引先のおっさんが嫌なヤツでさ、完全に人の足元を見てる。毎回ネチネチとこっちの腹探られてさ、まったく商談はまとまらない。今日も遅刻だし、また嫌味言われるよ、きっと」
「にゃーにゃ」
「お前みたいに自由気ままもいいけど、明日の飯にも困るようじゃたまらんしな。人間は働かないと」
「にゃーにゃにゃーにゃにゃ」
「お前…さっきから返事してないか?…気のせいだよな」
「にゃ」
雨が上がりそうだ。やっぱり通り雨だったらしい。

「さて、客先のオヤジがキレる前に顔を出すか。じゃあな、お前も達者でな」
「ほっとけ」
「えっ?」
「にゃあ」
「おいおい、お前…」

猫はのそのそと起き上がり、こちらに尻尾を向けて去ってゆく。
その両足の間から、タマタマがチラチラと見えていた。
「え?三毛猫の…オス?」
「お前も頑張れよ」
「え?…えぇ?ちょっと待って…」
「ま、俺は安泰だけどな」
「いや、待てって。どこ行くんだよ」

猫は走り出し、商店街の裏の、今まで見たこともないような豪邸に吸い込まれていった。

「三毛猫のオスってかなり希少な…てゆーか、あいつ、喋ったぞ。三毛猫のオスって喋るんだっけ?だから希少なのか?」
頭が混乱してくる。
「ま、まあ、いいや。仕事しよ」
雨は上がり、雲の切れ間から差し込んだ陽光が水溜りに煌めいている。
ネクタイを締め直して、軒先を出る俺の耳に、
「俺に会えたから、お前にも運が回ってくるよ」
なんて都合のイイ声が聞こえたような…気がした。

9/27/2024, 1:28:15 PM