「だぁからりんご飴なんてでっけーもん
食べきれないって言ったろぉ」
『だってどうしても食べたかったんだもん』
「そんな残してどーすんだよそれ」
『持って帰って少しずつ食べるからいーの!!』
「あっそぉ」
もーーー!!!なに!!コイツ!
折角のお祭りデートなのに
嬉しくて楽しくて キラキラした赤い大きなりんご飴がその気持ちにピッタリだと思ったのに怒られて
マジ面白くない
何日も前から張り切って選んだ 淡い大輪の花の浴衣も つまみ細工の簪もなんだか急に色褪せて 気分がしゅんとなる
「んな重いの持って歩くのだりぃだろ 帰ろーぜ」
もういっかもうつまんないわほんと
「ほら 寄越せよそれ」
ずいっと手を出されてりんご飴がミノルの手に渡る
「どっかで袋買お 汚れちまう」
そのまま空いてる方の手を差し出して私の手を握ると顔を覗き込んでニカッと笑った ニカッじゃねー
「ゆっくり歩いて帰ろーぜ」
『えぇ−』
こっちは浴衣に草履だぞ
デニムにスニーカーの普段着より格段に歩きにくい
全くなんか…こういうとこ…はぁ
「その方がユイのこといっぱい見てられるじゃん
今日すっげ可愛いし」
『え(マジか)』
会った瞬間も顔色ひとつ変えないしなんにも言わないしで コイツなんも感じないんだなーって 寂しかった気持ちが掻き消えてほわっと膨らみだす
『そっ そーゆーことなら一緒に歩いたげても
ぃーけどお?』
「なんだよ調子乗んなよなー」
からからと笑いながら手を繋いで歩き出す
「なぁ俺達来年卒業だろ」『そうだね』
「卒業したらさ一緒に住まね?」『お?』
「俺料理得意だから お得だぜ」思わずぷっとなる
『んなこと言ってぇ家賃浮かしたいんでしょー』
「俺は本気なんだけど」
立ち止まって真剣な目で見つめられて言葉に詰まる
そりゃずっと一緒に居れたらなって思わない日は
ないけどなんだこれプロポーズ??みたい?
実質そうなのか?
頭が追いつかなくなってきた
「ま。いーや来週ユイのお父さんとお母さんに挨拶行くから伝えといて」『来週?早すぎないw?』「いんだよこういうのは早いほうが」『…う…ん』
こっくりと頷くと ミノルは満足そうに微笑んで前を向く
カラコロと草履がなるたび頭がふわふわとなって
繋がれた手からじんわり幸せな気持ちが溢れる
勝手なことばっかり言われたような気もするけど
今この帰り道はずっと続けばいいのに
「りんご飴 冷蔵庫で冷やして切って食ったらうまいから」『そうなの?』「うん今のままよりうまい」
『へーじゃあやってみよ』
ねぇミノル 私たちうまくやれるかな?
こんな風に なんでもない話ししながら一緒に年取っていきたいのは私だけじゃないって思っていいの?
なんだか胸がいっぱいになってちょっと泣きそうになったから繋いだ手をブンブンさせて誤魔化した
「幼稚園児かよー」ってからかうミノル
『うっさいなー』て私
私たちは勢い良く 家に向かって気持ちだけは大股で歩き出した
───────お祭り──
7/28/2024, 12:44:04 PM