Mey

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行為を終えて乱れたシーツの上で互いに下着だけを身につけたとき、朝陽が「なぁ」と私に声をかけた。
彼は同い年で、大学のときの飲み会で知り合って意気投合。
その日の夜に私たちはラブホのベッドで乱れに乱れた。
有り体に言えば、とても気持ち良かったのよ、お互いに。
それ以降、どちらかに恋人ができた期間は互いに連絡を取らず、別れたら連絡を取り合って…
ここ数年の私たちは予定のない週末には朝陽のマンションのワンルームでそういう関係を続けている。

今日も身体には汗を一枚纏い、心地良い気怠さ。
眠たいなぁ。ちょっとだけ眠りたいかも。

私は欠伸をしながら「なに…?」と返事をする。
あ、ほんとに眠い。寝ちゃうかも。

気づいたら朝陽はズボンも履いてた。
朝陽は趣味でキックボクシングをしている。
細マッチョで筋肉が引き締まっていて、私好みの体型を最初に知り合った頃から維持している。否、パワーアップしている。
夕方から夜へ移行する薄暗がりに彼の上半身が浮かび上がる。その美しさに私は思わず眠気を忘れて見惚れていた。

「葵って彼氏と別れて何年経った?」
「なに、突然」
「ん、良いから、教えて」
よくわからないけど答えて欲しそうではあるから、「2年とちょっと」と答える。
ああそうか。この人と私は2年間セフレを続けてるんだ。
その間好きな人もできず、男性と遊びに行くこともなく、私は朝陽との週末エッチだけで満足しちゃってるんだ。

「えっ、そっちは?」
「俺も2年位」
「ああそうだったね。私と同じ時期だったもんね」


今となっては懐かしいなあ。
学生の頃って、恋人との別れは人生最大の落ち込み、奈落の底に突き落とされたかって位号泣してたのに、最後の別れはそんなことなかった。
LINEで友だちに送るように報告したっけ。

「実は、別れちゃった」
「俺もうまく行ってない。別れることになるかもしれない」
「そっか。話聞くよ」
ありがとう、とスタンプが来て、1週間後には別れたって報告されたんだった。


朝陽の手が伸びて、私のブラのストラップが腕に落ちたのを肩に引き上げて直してくれる。
「毎回落ちるよな、左肩だけ」
「ストラップで長さを調節しても、なんか上手くいかなくて」
「女って大変だな」
ストラップをやりづらいとか言いながら少し短くしてくれた。
今までにないフィット感がちょうど良い感じ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
振り返って笑ったら、朝陽も白い歯を見せてニカッと笑った。

「朝陽ってイイ男なのに、なんで恋人ができないんだろうね?2年間も」
「何でだと思う?」

朝陽は少し背を屈めて私の目を覗き込んだ。
何かを見透かされそうにジッと見つめられて、私は何故か焦っている。

「何で、か、わからない」
「葵といるのが1番楽しいからだよ」

黒目がちの瞳が私を見つめている。
柔らかな深い声が、それが冗談ではないと告げている。
部屋を満たす無音が、私を緊張させる。
何て答えれば良いの?何て。

「ぅっ、クシュっ」
突然の私のくしゃみに朝陽は横を向いてフッと笑って、私の肩にタオルケットをかけた。
裸の肩に柔らかな暖かさ。
まるで朝陽に包まれているような、安心感。


「…朝陽」
「ん?」
「私も…朝陽といるのが1番楽しいのかもしれない…です…うん」
「そうか」
コクっと頷く。


これが恋とは思わない。
ときめきほど心臓が早鐘を打つわけでもなく、朝陽のことを四六時中考えているわけでもなく。

愛が、恋の未来にあるものならば、これは絶対に愛じゃない。

でも、愛は恋の先にあるものでないとしたら?

恋でも愛でもないのなら、残るのは友情か。
体の関係を続ける友情って何だろう?


朝陽と私の関係。
難しすぎてわからない。
この関係性はずっと続くと思っていたけれど、いつか終わりが来たり、形を変えてしまうのだろうか。

指先を口元に当てて考える。
いつか朝陽に言われたことを思い出す。
葵って、指先を口元に当てて考えるよなって。
私の癖を指摘するのも、私のストラップが落ちることを知っているのも朝陽だけ。

朝陽が、私のことを1番よく理解している。


朝陽が私の背後に周り、タオルケットごと抱きしめた。
私の頭に顎が乗って、体重をかけられて少し重い。
筋肉質な体は私の好きな重み。

だけど、朝陽は私のことをどう思っているのかはわからない。

恋か、愛か、それとも。


「俺は葵が大切だよ」

ぐちゃぐちゃになりそうな頭の中を、朝陽は一言だけ私の心に響かせた。





恋か、愛か、それとも

6/4/2025, 1:05:41 PM