ストック

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「…夜の海って、もっとロマンチックなものだと思ってたんだけどなぁ」

最近カメラを新調した私は、早速写真を撮ろうと海のある街へ旅行に来た。
いわゆる「海なし県」に済んでいる私にとって、海はミステリアスで憧れの場所だった。

宿に荷物を預け、地元の食堂で取れたての魚を堪能する。初めて聞く名前の魚もたくさんあり、海の恵みをたらふく堪能した。

近くの浜辺に来たが、観光客が多くてなかなかいいスポットが見つからない。
しばらく悩んだ私は、せっかくなら夜に写真を撮りに行こうと決めた。
夜の海はどんな神秘的な光景を見せてくれるのだろうか。
私は定食屋でまた新鮮な魚に舌鼓を打ち、21時頃に同じ浜辺に出掛けた。

しかし、当たり前と言えばそうなのだが、夜の海は真っ暗だった。
浜辺と海の境界もわからない。

「はぁ……失敗したなぁ」
諦めきれずに、灯りを探して少し歩くことにする。

そういえば、柔らかい砂の感覚が気持ちいい。さわさわと鳴る音が耳をくすぐる。
夜になって人のいなくなった海の引いて寄せる波の音は、馴染みはないはずなのにどこか懐かしくて心が凪ぐ。
私はしばらく夜の浜辺の散歩を楽しんだ。

美しい景色は見られなかったけれど、美しい音に出会うことができた。
夜の海もいいものだな。

8/15/2023, 12:28:53 PM