わたあめ

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「母さん、今日、父さんが帰ってくるのよね」
寧音は布団から飛び起きるとごはんの支度をしている母さんに声をかけます。
都へ仕事に出かけた父さんは秋祭りの日には帰ってくると言いました。明日は秋祭りです。父さんが帰ってくるなら、今日しかありません。
「そうね、父さんが帰ってくるまでに家の事を片付けてしまいましょう」と母さん。

午後になり寧音はまた母さんに訊ねます。
「ねぇ母さん、父さんはいつ帰ってくるのかしら?」
「いつかしらね」と母さんは答えます。

空が茜色になっても父さんは帰ってきません。
「母さん、父さんはまだかしら」と寧音は訊ねます。
「そうね、先にご飯を食べてしまいましょう」と母さん。
寧音は久しぶりに父さんと母さんと一緒に食べる食事を楽しみにしていたのに、と少し不満に思いつつ夕食を食べ終えました。

空に星が見える時間になっても父さんは帰ってきません。
「寧音はそろそろおやすみなさい。父さんが帰ってきたら、起こしてあげるから」と母さんは言います。
寧音は嫌々布団に潜り込みます。
父さんは秋祭りまでに帰ってくると約束したのに、いったい何をしているのでしょう。もしかしてもう戻ってこないのでしょうか。寧音は不安になりました。布団に入っても全く眠たくありません。

そっと外を覗くと西の空に細い月が薄く出ています。
その時、扉が開く音がしました。
寧音は布団を跳ね退けて玄関に向かいます。
そこには笑顔の父さんが立っていました。


『今来むと いひしばかりに 長月の
 有明の月を 待ち出でつるかな』

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お題:眠れないほど

12/6/2024, 10:20:31 AM