夜空の音

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君からのLINE


あの子がお出かけした。
珍しく、私も連れて行ってくれるらしい。
それにしても、今日のあの子はどこかおかしい。
部屋をとっても綺麗にして、部屋のぬいぐるみたちに1人1人抱きしめていた。
あの子はぬいぐるみを大事にする子だけど、なにかが引っかかる。

考えているうちに駅に着いた。
『切符を買うんだね、どこに行くの?』
「ひまわり、見に行ってみない?」
『いいね!今の季節ならすごく綺麗に咲いてると思う!』
2人で電車に揺られる。
かなり遠くに来たようで、お昼前に家を出たのに、目的地に着いた頃には夕焼け混じりの空になっていた。
『きれいだね。やっぱり私、ひまわり好き!』
私は目を輝かせてひまわりを眺めた。
あの子の一番好きなお花はひまわり。私はあの子が好きなものが好き。私たちは、一心同体だから。
だから、あの子の目も同じように輝いていると思ってた。

青空と赤空が消え、夜空の時間になった。夜とひまわりもいいものだと思っていると、あの子があっと声を上げる。
「終電終わってる。」
『なんで調べなかったのよ!私はソレ使えないから任せてたのに....。』
ごめんね、と謝るあの子からは焦りが見えず、違和感を感じた。
でも、今そんな事気にしてる場合じゃない。とりあえずママにごめんなさいLINEをあの子は送って、私たちは泊まれる場所を探した。

案外近くに漫画喫茶があり、私たちはお店に入った。
「いらっしゃいませ、1名様ですね。ただいまのお時間女性用ブースが空いておりますのでいかがですか?」
「それでお願いします。あと、飲み物。お酒ありますか?無ければ持ち込みしたいんですけど....。」
「持ち込み可能ですし、酒類も取り扱ってますよ。」
店員さんとあの子のやり取りを私は見守っていた。

私たちは2人でお酒を飲みながらパソコンで音楽を聴いたり、アニメや映画を見たりした。あの子は用意周到で、カバンから雪の宿とマシュマロを取り出した。
『雪の宿!マ、マシュニャロ!!』
私たちの一番好きなお菓子。2人でパクパクと頬張りながら、クピクピとお酒を飲んだ。
『そういえば....、なんでお菓子持ってきてたの?』
私たちはお菓子買いには言ってないし、今日泊まることにならなかったら鞄に入れておく必要はなかったはずだ。
「んー、とねぇ。」
お酒に弱いあの子はふにゃふにゃしていた。
「今日、帰るつもり無かったの。もともとねー。」
あの子は私をぎゅっと抱きしめて、胸元に顔を埋めた。
「明日の夜まででいいから、あともう少し一緒にいてよ。その後は、私いなくなったら、ママのとこ帰るんだよ。」
その言葉を最後に、あの子は眠りに落ちてしまった。
私はどうするのがいいのか分からなくて、あの子を抱きしめながら考えた。

ここ最近の寝不足が祟ったのか、起きたら既に夕方前だった。
『おはよ、おそいよぉ!』
私は起きたあの子の頬に猫パンチをお見舞いする。
「おはよ、寝てたの私だけじゃないじゃん!」
あの子はそう言いながら私の頬をぷにぷにする。
「もう1回、ひまわり畑に行こう。もっと奥に進んだら海とひまわりと空のコラボレーション見れるらしいの。」
ゆっくりと退店する用意をするあの子はいつも通りに見える。
『それ、昨日飲みながら言ってたじゃん。私は!そのつもりだったんだよ?誰かさんが寝てたけど。』
「あれ、そうだっけ?」
ごめんごめんと頭をなでるあの子の手が私は大好きだ。

利用料金の支払いも済ませた私たちは、昨日のひまわりを見に行った。
やっぱり夕方もすごくきれいだ。
「あっちの方らしいよ。」
マップを見てあの子は海辺のひまわりの居場所がわかったようだった。
『はやく!いこう!』

案外離れた海辺のひまわりを見つけた頃には星空になっていた。距離の問題もあってか、人一人いない。
きれいだね。と1時間ほど2人で眺めて、たわいのない話をしていた。
「さて、と。」
大きく深呼吸をしたあの子は、カバンを抱えて波打ち際へ近づいた。
『やっぱり、海に入るつもりだったんだ。』
足元にカバンを降ろし、裸足になろうとした。そんなあの子に掛けた言葉にビクッと反応した。
『私を騙せるとでも思ったの?』
「....。」
『私たち、生まれてからずっと一緒にいたんだよ?わならないわけないじゃん。』
私の前にぺたんと座り込んだあの子は、私をカバンから取り出した。
「そう、だよね。でもね、もう、私しんどくて....。」
だから。と言いかけたとき、誰かが砂浜を走る音が聞こえた。
2人で音の主を探して振り返るのと同時に、誰かに上から抱きしめられた。

「大丈夫だからね。」
上の誰かがそう言った。
「だから、家に帰ろ?」
「『ママ?!』」
ママが来てくれた。これで私が心配することはなくなった。
私はすごく安心してしまい、気づいた時には家の机に座ってた。

「ママ、なんで場所とかわかったの?終電逃したってしか言ってなかったじゃん。」
ママとあの子が話し合っている最中だった。
「LINE来たのよ。」
そう言って画面のメッセージをあの子は身を乗り出して見ると、驚いた顔をした。
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まま
にゃーです
はやく いえにつれてつて
ひまわりのとこ
うみもあるよ
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あの子とママは顔を見合わせて私を見た。
このLINEを信じられない。というように。

そう、私はにゃー。とらねこのぬいぐるみ。
私とあの子は生まれた時から一緒にいたパートナー。
ぬいぐるみがLINEできるなんて、初めて知ったなぁ。
そう思いながら、動けず話せない私はいつものニコリ顔で2人を見た。

9/15/2024, 2:48:21 PM