上原健介

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本棚が散らかっている。それはまあ、足の踏み場もないほどに床に落ちていたり、雪崩のように本が崩れたりしているのだ。僕は早く片付けねばと、床に落ちている一冊の本を手に取った。それは、見覚えのない本だった。かなり年季が入っているようだ。僕はタイトルなんか見ずに、早速ページを開いた。自分でも、殆ど無意識のうちに、だった。この本を読めば何かが叶う。本能的にそう悟ったのかもしれない。1ページ目には赤い文字で[Aくんを殺す方法]と書かれていた。僕の脳裏に一つの顔が思い浮かぶ。僕は思わず、本を閉じそうになった。A君というのは、僕のクラスメイトで、背が高くてハンサムで、ときたら、頭も良くて人望もあるような、非の打ち所のない男だった。僕は、少し戸惑ったが更にページを読み進めることにした。A君は僕をいじめていた。彼は、自分と取り巻きたちで、僕を殴ったり、何かを強要したり、お金を取ったりした。その時のA君たちの顔はとても楽しそうだったのを僕は覚えている。まるで、今の僕の顔みたいに。本には、A君の殺し方や遺体の処理の仕方、警察が来たときの対応の仕方などが、具体的に書かれていた。僕は、それらを一文字一句目に焼き付けるようにして、全てを読み上げた。
僕は、ずっと前からA君を殺そうと思っていた。A君を殺せば、何かが変わって、この地獄みたいな日常が終わると思っていたのだ。しかし、それは、[すれば]の域を出ることはなかった。もう失うものなどないというのに、中々決心がつかなかったのだ。だが、もうこれで決心がついた。僕は、A君を殺す。A君が僕の心と理性を殺していったように。僕は、ふと気になって、本の表紙を見てみる。真っ白な表紙の上に、赤い文字でこう書かれていた。
[君達がとても好きな本]

6/15/2023, 3:24:26 PM