通り雨、ゆく人来て別れては、また会うも泡沫なり。
たたずんでいると、大きな人がやって来た。
長身で、スーツ姿だった。
そのスーツを傘替わりにしているので、私は少し横にずれて、コンビニの軒下を譲った。
「降りますね……」
(うわ、声めっちゃ低い……タイプ)
「そ、そうですね」
思わず声がうわずるぐらい、私は動揺していた。
この状況下で、出来ることといえば、本当に井戸端会話ぐらいしかない。
話すのか?
この男と……。
見た感じは、普通のサラリーマン。
そして、驚くほど、ガタイが良い。
スーツの下に覗く、筋肉質な体が、雨に濡れたシャツに透けている。
髪の毛は黒髪の短髪。目つきの悪い……というか、これは隈だろうか?
もしかして、ブラック企業勤務、とか?
「あ、あの……」
「なんでしょう、えっと、なにか失礼を?」
「い、いえいえいえ、なんでもありません!」
ただ、その会話だけで終わった。
男の人は傘を買って、去っていった。
ただ、その勝った傘が、数秒で風に吹かれて裏返ったのには、正直ウケた。
かわいそうに……。
私は手を合わせて、拝むしかなかった。
9/27/2023, 10:20:09 AM