マナ

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あの時、私が抱いていた感情に名前をつけるとするなら『哀れみ』、といえるだろう。


彼女は、祖先の特徴をその背に有していた。
空を舞う鳥たちに似た、白い翼を。

長い年月をかけて、祖先が点在していた群ごとに交配が進んでいくなかで、祖先の特徴を有することは重宝がられるどころか、退化と見なされ迫害の対象とされた。

彼女―シロヨクも、例外では無かった。

彼女の年が3つになる頃、年の近い子どもたちは彼女と遊ぶことを避けるようになった。

大人たちが明らかな侮蔑の態度を取るようになったからだ。

この頃、シロヨクの背には傍目から明らかに肩甲骨とは異なる盛り上がりが服の上からでも確認できる状態で、幼いシロヨクの小さな身体にはアンバランスな大翼が折りたたまれていてもなお、その存在感を現していた。

一人ぼっちで過ごすことが増えたシロヨクは、茂みに隠れ、時に必死に声を殺して嗚咽した。

その姿は、アカメの脳裏を焼き、胸に長針が刺さったような痛みを残した。

アカメは、視力の無い紅い瞳と銀色に近い白髪を持って生まれた。
稀有な容姿のアカメは、視力を持たずとも、全身の感覚をもって自分と外界とを理解し、見えないはずの世界を透視というかたちで頭の中に顕現させることができた。

さらに稀有な能力を宿していると知るや否や、群の大人たちは驚きおののいて、アカメを神格化し、不可侵の存在として囲うようになった。

アカメは自分の意思で自由に外に出ることも、誰かに会うことも難しくなった。いわゆる軟禁状態に置かれた。

ただ透視だけが、彼と外界との接点を唯一繋ぎ留めていた。

アカメは、自分に食事を運んでくる母世代の女性が下がると、手早く食事を喰らい、次に女性が訪れる半刻後まで透視に集中した。

シロヨクの状況を知ったのは、そんな時だ。

アカメ9歳、シロヨク3歳の頃だった。



『どうして泣いているんだい?』

頭の中に突如、男の子の声が響き、草むらに身を潜めていたシロヨクは、勢いよく顔を上げて左右を見回した。

誰もいない。
シロヨクしか。

「だぁれ…?」
シロヨクは、思わす声を漏らしていた。



#恋物語

5/19/2024, 3:25:46 PM