今日の仕事を終えて、芝生に寝っ転がった。
朝から晩まで羊の世話をするこの仕事は、それ以外の生業を知らない自分にはピッタリだ。だがふと、いつか別の仕事もしてみたいとも思う。
そんなことを思っていれば、すっかり暗くなった頭上では星々が輝き、人々に方角を教えてくれている。
「おーい」
声がする方では、少し向こうのほうで仕事仲間のパレトロが手を振っている。
それに手を振り返せば、まるで犬のような顔をしたパレトロがこちらにかけてきた。
「こんなとこで何してんだ?」
「何って、星を見ていたのさ」
「星?んなもん見てねえで、早く帰って飯でも食おうぜ」
腹が減って仕方がないと言った様子のパレトロは、訝しげにこちらを見る。
「まあまあ、ここで急いで帰っても、星を見て帰っても、腹に飯が入るのはそう変わんないだろ。お前もどうだ。ちょっと見ていけよ」
すると珍しく少し考えた様子のパレトロは、たしかになと呟くと大人しく隣に寝っ転がった。
「で?こんなの見て何が楽しいんだよ」
まだまだ若さが残るその言い方にクスリと笑いつつ、指で幾つかの星をなぞった。
「そうだなぁ。あそこの一際輝いている星と、その六つ横の星と上の星を組み合わせたら、蛇みたいな形になるだろ」
「そうか?俺にはうちそこなったムチにしか見えねえ」
「随分物騒なやつだな」
そういえばケラケラとパレトロは笑う。
「野蛮な育ちで悪かったな。それで?」
「生まれも育ちも同じくせによく言うな。まったく、いいか、あれを蛇だとするぞ。それで、その隣の輝いてる星を繋げれば蛇使いだ」
そう言って適当に指を動かせば、横から雑だとクレームが入る。
「蛇なんて何ができるんだよ」
「さあな。でもここよりもっと西の方にはそう言う職業の奴がいるらしい。ホビリが言ってた」
「あいつは適当で有名な商人だろ!ホラでも吹いてるんじゃねえのか」
さあ?と肩をすくめてケラケラと笑う。ホビリの言が嘘でも本当でもどっちでもよかった。ただこの世には自分の知らない世界や職業があるとしれただけで十分だったのだから。
「僕もお前も、羊の世話しかしたことないけど、この先世帯をもって別の職につくかもしれない。そう考えたら、明日も楽しみだよな」
「そうかあ?俺はこれから食う飯のこと考える方が楽しみだね」
「まったく、お前はまだまだ子供だね」
なんだと!?と言いながら飛び起きたパレトロに倣って起き上がる。そろそろ戻らなければいけない頃合いだろう。
「まったく、年は変わらないくせに、本当にお前は年寄りみたいなことばっかり言うな、ダビデ」
「思慮深いと言ってくれ」
ケラケラと笑い合いながら、仲間が待つところへと歩いていく。空では星々が降り注ぐように輝き、その平和を祝福していた。
10/6/2024, 8:36:00 AM