もう、一時間も歩き続けてる。
目的地の神社が見つからない。
この山道を登ればすぐだって聞いたんだけど…辺りは緑の木々に囲まれ、建物らしきものは何ひとつ見当たらない。
どこで間違えたんだろう?
いい加減独り身が辛くなり、かと言って出会いの少ない昨今、もうなりふり構わず神頼みすることに決め、縁結びで評判のイイ神社をネットで検索した。
思いのほか自宅から近い場所にこの神社があることを知り、出会いのご利益を求めて山道に踏み込んだわけだが、パートナーどころか神社そのものに出会うことが出来ない。
こりゃもう辿り着けないのかなと諦めかけた頃、山道の傍らに一人の老人が腰を下ろしているのが見えた。
よし、あの人に聞いてみよう。
それで分からなかったら諦めよう。
「あのーすみません。ご休憩ですか?」
「見りゃ分かるじゃろ。働いてるように見えるか?」
「あ…いえ、道を尋ねたいのですが…」
「どこへ行きたいんじゃ?こんな山の中で」
「この辺りに、縁結びにご利益がある神社があると聞いたのですが…どーにも辿り着けなくて」
「ほう…縁結びか。イイ相手を見つけたいと?」
「そうですね。もう、一人の生活は寂しくて」
「それじゃあ、まずはその靴紐を何とかするんじゃな」
「…靴紐?」
「ほれ、靴紐が解けておる。そんなんじゃダメだ。縁は結ばれん」
「靴紐が…良縁と何か関係があるんですか?」
「あるに決まっとるじゃろ。縁というのも、言うなれば紐なんじゃ。運命の相手としっかりと結ばれるためのな。それが解けておったら、良縁なんかに恵まれるわけがない」
「いやでも、靴の紐は縁の紐とは関係が…」
「なんでないと言い切れる?その足で相手のもとへ歩いてゆくんじゃろ?紐が緩んでおったら、上手く歩けんじゃろが。相手のもとへ辿り着けん」
「もしかして…そのせいで私は神社に辿り着けないのですか?」
「ん…まあそれは、一概にそのせいとも言えんが…とにかく、縁を結びたいならまずは靴紐を結ぶことじゃ」
「…分かりました。靴紐を結び直して、もう一度神社を探してみます」
「どうしても神社へ行きたいのか?極意は教えてやったのに」
「靴紐は結び直しますが、それだけで上手くいくとは思えないんですよね。やっぱり、神社で拝まないと」
「…そうか、分かった。なら、もう少し待て。神社ってのは神様のいる場所じゃからな。そこから神様がいなくなったら、消滅してしまうんじゃよ。今はまさに、消滅している時間じゃ」
「神様が…いない?それは何故です?」
「ここで一服してるからじゃよ。ずっとあそこで、皆の願いを聞き入れるのも疲れるのじゃ」
「…ん?あなたは…?」
「大国主神。縁結びの神様じゃ。ワシに任せておけ」
「マジっすか?もう、大船に乗った気持ちでいいってことですね?」
「ワシの力を見くびるな。まずは神社に戻るから、しばらく歩いたら来い。今度はちゃんと見つかるはずじゃ」
果たして、神社はあった。
先ほど何度も通り過ぎた場所。
木々が生い茂る行き止まりだったはずのところに、見るからに立派な神社が建っている。
さすが大国主神。
おかげさまで、この先イイ出会いが待ってる気がしてならない。
靴紐も結び直した。
さて、自分は今、誰かと繋がったのだろうか。
この大船が、あっけなく沈んでしまわぬことを祈る。
9/17/2025, 2:32:37 PM