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手を取り合って

ひなびた田舎の海岸を歩いている。
言い過ぎに聞こえるかもしれないが私の故郷だ。
許してほしい。
足元に散らばる枯れた木の枝や錆びた鉄の固まり。
波打ち際には無数の貝殻が転がっている。かつては貝殻ではなく貝として存在していたのだろう。


私はなにも懐かしんでここに来ているわけではない。
故郷はとうの昔に記憶の底に放り投げた。何もなければ思い出しもせず、戻ってくることもなかっただろう。ここにいるのはそうしなければ立ち行かない理由が出来たからだ。

ざぶん。海からひときわ大きな波音が聞こえた。

迎えにきたよ。『それ』は言う。
久しぶりに見る『それ』は記憶より穏やかな声をしていた。私を2本足に変えた海の主。

もう海以外に残された場所はなくなるよ。帰ろう。
主はそう言って私をもとの姿に戻した。
ぱちゃん、と波音をたてて泳ぎだすと、魚は何事もなかったように主と寄り添って陸から離れ泳ぎ出した。

7/14/2024, 11:03:02 PM