あの時、君を引き止めていれば。
あの時、君に何か言えていたら。
言い出せなかった「 」
思えば君とは長い付き合いで、僕が色々な事情でこの地域の人達に引き取られた時から、ずっと傍に居た気がする。歳も近かったし、家もお隣同士で、お互い外で遊ぶのが好きで、隠れん坊よりは鬼ごっこ派で、袋菓子をひとつ買うよりも沢山の小さいお菓子を買う方が好きだった。
中学校に入ってからは、顔を合わせるのも気恥ずかしくて、なぜだか会う機会も減っていったが、それでも帰り道、君は校門でいつも僕を待っていた。僕に笑いかける君のその顔が夕焼けの空に照らされて、なぜかは分からないけれど、少し切なかった。
──────多分、初恋だったのだと思う。
僕らが住んでいた地域は大変田舎だったもので、小学校と中学校は合体していたし、高校もひとつしか無かった。将来何かやりたいことがある同級生は、この街から巣立ち、どこか遠くの学校へと旅立って行ったが、僕は将来やりたいこともなくて、なんだかんだでこの街の高校に進学した。君もそうだった。
この頃になると、君と僕は毎朝家の前で待ち合わせをして、スクールバスでは隣にたち、下校の時はどちらかが言い出さなくても、校門の前で片方を待っていた。
今日は僕の方が早く校門に着いた。
─なあ、お前。あの子と付き合ってるのか?
─はぁ!?告白してない!?
─あの子結構モテてるし取られちゃうかもな。
同級生のからかい声が頭の中に響く。
…告白。
夕暮れに照らされたようなオレンジ色ではなく、タコの様に真っ赤になっていたと、君は笑った。
……告白、していたら。
何かが変わったのだろうか。
今は君の最後の言葉だけが耳に残る。
「さようなら」
9/4/2025, 3:31:25 PM