泡沫

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帰り道。落ち葉が風に巻き込まれ、高く舞った。春と違って、舞っても全然綺麗じゃない。私は秋がそんなに好きじゃなかった。
足元の落ち葉をカサカサと蹴る。大きくて鬱陶しいそれを、無関心に踏みつけた。
陽の落ちる時間が、徐々に早くなっている。私の気分も落ちていくように思えた。夜は寒いから。
まだ時期には早いけれど、マフラーをしていた。この時期に君から貰ったものだった。君は寒がりだったから、早めに買っていたのを思い出す。それにしても早すぎるのではないかと、思い出して苦笑した。でも、心が温かくなる。本当に大切なんだと実感した。マフラーをきゅっと握る。
今、元気にしているかな。ふと思う。これまでずっと一緒だったから、今隣にいないのはとても寂しい。なんて、本人の前では言えないけれど。
顔を上げると、夕焼けが眩しく空を照らしていた。橙の強い光が、私と街を照らして、空を暗く焦がし始めていた。
帰り道の下り坂。そんなに高くはないけれど、街を上から見るのは好きだった。住んでいる街を上から見るのは、なんとも言えない高揚感と、寂しさを感じるから。
重い足を下りの流れに乗せて歩く。自然と下を向くその先に、一つの影が立っていた。影が濃いな、と思った。きっと私の後にも、暗く濃い黒があるのだろう。夕焼けが見せる夜の合間は、なんでこんなに寂しくなるのだろうか。
歩いていると、その影が近づいてくるのが分かった。影じゃなくて人をみようと顔を上げる。
それは、よく知る顔だった。東京へ一人、この街から抜けて行った君だった。
「──っ」
目は見開いている。喉が締まって上手く声が出ない。体は気を抜いたら倒れてしまいそうだ。上手く立てているだろうか。
「……ごめん、待たせて」
感情も頭も整理しないまま、君の言葉を受け取った。でも、なんて言ったら良いかなんて分からなくて、これまでの感情も言葉も何もかもがあったのに。消えて、ただ。
「──う、れしい」
それだけだった。それだけで良かった。君は笑って抱きしめる。その抱擁がとても幸せで、抑えの無くなった感情が涙と声になって溢れた。
これまでずっと待っていたんだから、これから尽くしてくれなきゃダメだって、そう思っても言葉にならなかった。
帰ってきてくれてありがとう。私の元へ来てくれてありがとう。声をきかせてくれて、謝ってくれて、抱きしめてくれて、それから、それから──。
夕焼けが、私たちを包む。くらい影の形が曖昧になるまで、私たちはずっと。これまでを埋めるように、二人で。

7/13/2023, 2:05:00 AM