思い出

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〔今年で、十年か。〕

私はあるカレンダーを見て、呟いた。
そのカレンダーは、日付が十年前の九月で止まっている。

一日、二日、三日、とバツ印が付けられて、日数の経過を表している。

二十五日。

その日で、バツ印はなくなっていた。
それが意味する者は、簡単な話だ。

祖父の命日である。

〔はやいね、じいちゃん。もう十年だってさ。
私も大人に成っちゃった。見てほしかったなぁ。特別に
普段滅多に着られない、着物着たんだよ。〕

独り言が止まらなくなる。

〔自分で言うのもなんだけと、すっごい綺麗に仕上がってた。着物の柄ね、鶴にしたんだ。色鮮やかに仕立てられた布地に、鶴が飛んでいるの。〕

写真立てに飾られた、二つの写真に目を遣る。
其処には、祖父に肩を抱かれて、所々土に塗れて笑う私と、独りで色鮮やかな着物を着て、化粧をして、微笑んでいる私だ。

〔いやぁ、我ながら絵になってるわ。〕

だから、見てほしかった。土に塗れた私だけじゃなくて、大人に成って、土じゃなくて、化粧をして美しいと思ってもらえる私を。

あの日で止まった儘のカレンダーは、淋しく揺れる。

9/11/2023, 10:23:30 AM