NoName14

Open App


ばあちゃん家の縁側

庭には、梅に木蓮…それと桜が植えてある。
休みの日には時間があると
この縁側に吸い寄せられるように
近所のばあちゃん家に来てしまう。

ポカポカとした陽気が
心地よくて、ぶらぶらとつま先に
引っかけていた
ばあちゃんのつっかけが片方
ポテっと、落っこちた。

それも、お構いなしに
ゴロゴロとしていたら

『まったく、だらしない孫だね』

と、鼻で笑うように
ばあちゃんが奥の部屋から出て来た。

咥え煙草のばあちゃんは
お盆を、ぶっきらぼうに縁側に置くと

ふーっと煙を吐いた。

どっちが、だらしないんだよ…
なんて思いつつ
お盆に目をやると煎餅やら団子に
チョコレート…それにいつもの渋いお茶が
雑多に盛られていた。

『いいの!春うらら!
私は春を満喫してるんだから』

そう言いながら、どれにしようかなと
チョコレートを口に放り込む。

ばあちゃんは、ニヤっと笑って

『春は、木の芽時言うて
体調悪うしたり、おかしな奴もおるけどな』

…ばあちゃんは、いつもちょっとだけ
意地悪だ。

『そんなら、煙草辞めなよ。』

お茶を啜りながら、尚もぷかぷかと
煙草を燻らせるばーちゃんは
庭を眺めながら、笑った。

『今更、やめてもお迎えの方が早いわ』

私は、そうですか…と
期待通りのばあちゃんの返事を
聞きながら、次は煎餅に手を伸ばす。

煎餅を、バリバリと頬張りながら
庭を眺めるばあちゃんの横顔を見つめた。

そろそろ80を迎えるにしては
背筋は真っ直ぐに伸びて
いつも、どこか凛としている。
じいちゃんは、早くに亡くなって
家も庭も守りながら私の父や叔父さんたちも
女でひとつで、育ててきたのだから
そういうものなのだろうか。

『そんなに見ても、何も付いてないやろ?
あと、小遣いもやらんで』

ばあちゃんは、いつも私を小さく扱う。

『ご心配なく、ちゃんと稼いでますから!』

ふん!っと寝転んだ体勢から勢いよく
座り直す。

ばあちゃんは、私の方を向いて

『それなら、安心やなぁ』と
ニカっと笑って
私の頭を2、3度ポンポンと叩いた。

ふと見ると、桜の花びらが
ばあちゃんの髪に引っ付いている。

一瞬迷ったけど、なんだかそのままで
良いような気がして言わなかった。

この時間が、どれほど大切なのか
きっと2人して分かっているのだ。

だから、来年の春もばあちゃんと
この縁側で過ごすのだ。
春だけじゃなく、夏も秋も…

口は悪いし、煙草の煙は嫌だけど。

この縁側は…もうずっと
ばあちゃんの匂いがするから。


【お題:春爛漫】

3/27/2025, 3:42:31 PM