蝉が木の幹に力なく伏せっているのを見た。
ひまわりは項垂れている。
真ん中を指でかじるとハムスターが大好きな種が落ちた。
まだまだ日差しは強くて白いリボンの麦わら帽子は手放せないけれど、自身や建物の影がだんだん、だんだん伸びていっていることが分かる。
夏が終わるのだ。
学校が始まるまで1週間を切った。
葉月は体の全部から空気を吐き出すように肩を下ろすと、垂れたひまわりから翻して走った。
水色のワンピースが揺れる。
小石混じりのあぜ道とサンダルがこすれて音楽をつくった。
そうすると古い日本家屋の前に置かれた車が見えてきた。
「おとうさあん。」
葉月は呼ぶ。
汚れが目立つ白色の車の奥から、首に手ぬぐいを巻いた葉月の父が姿を現した。
「どうしたんだ、もうすぐ帰るんだぞ。」
目線を合わせ、優しい声色で諭すように言う。
「何時に出るの?」
「……あと15分かな。」
「じゃあ、100円ちょうだい。最後に駄菓子屋さんでお菓子買ってくるの。」
父親は少し驚いたように目を丸くし、首を傾げた。
しばらく考えるような素振りをしていたが、
「いいよ。」
という一言でポケットから数枚の小銭を渡してくれた。
「いち、にい……うん、100円あるね。気をつけていってくるんだよ。」
「ありがとう。」
10/7/2024, 8:36:53 AM