無音

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【60,お題:秋🍁】

「右手、もう問題なく動く?」

「ああ、まだ力が入りにくいが普通に生活するなら不便はない」

そっか、と短く呟くと青年はふっと空を見上げた
暑い夏の澄みきっていて高い空は、ちょっぴり閉塞感を感じる鱗雲の壁紙へと変わっていた

もう秋かぁ、と誰に言うでもなくしんみり思う
この時期は少し苦手だ、肌寒いし手が乾燥して痛い

何より、どこにいても冷たい風が付きまとうこの時期は
何故か大切なものを失ったような気がして、心細くなる

「お前こそ、傷が酷いんじゃないのか?」

「僕は平気、早く見つけてもらえたし安静にしてればすぐ治るって」

包帯の巻かれた足を揺らしながら空を眺める
夕焼け色、カラスが鳴いている

「お前は...俺が何かわかるか...?」

「え?君は君じゃないの?」

いつも通りの感情の入ってないような平坦な声
その声が、いつもよりも小さくて心なしか寂しそうに感じた

「俺は自分がわからない、人間らしく生きられないし、かといって人外になりきる勇気もない」

「俺は、なんだ?」

冷たい風が頬を叩いて通りすぎた
肌寒く、なんとも言えない心細さ心臓の部分に穴が空いたようだ

「わかんなくていいじゃん、そのままで」

柔らかな声、優しく太陽に照らされているような声

「わかんないなら無理に考える必要ないよ、それよりももっと楽しいこと考えよ」

「...例えば?」

「例えば~、明日晴れるかな~とか?」

「...フッ」

「あーっ笑うなー」

いつの間にか鳴り出した、夕焼けこやけのチャイムの音
カラスの群れに、鼻をくすぐる金木犀の匂い

「秋だね...」

「そうだな...」

9/26/2023, 10:26:12 AM